人の感情なんて、よく分からないものばかりだ。
勝手に怒ったり、勝手に拗ねたり、勝手に泣いたり。
そう思いませんか?
ねー、先輩
「…はぁーーー…」
私は、わざとらしく深いため息をついた。
チラッと渚(ナギサ)先輩を見てみるけれど、先輩は私の深いため息を見事にスルーして、仕事をテキパキと片付けている。
「はぁーーぁ」
…渚先輩は、“スルーする”という技を覚えた
頭の中で、勝手にナレーションをしてみる。
そしてそれでも諦めないのが私、山田 心花(ココナ)なのだ。
「あーっ誰かー、私の話、聞いてくれる人いないかなぁーっ」
大きな声でそう言うと、渚先輩は眉間を指でおさえて、
ふぅーっと呆れたようにため息をついた。
「……はいはい、聞きます、聞くからそれ止めて、はぁーって」
…粘り勝ち
「…聞いてくれるんですね、優しいなー、先輩は」
またわざとらしくそう言うと、先輩は困ったように眉を下げた。
「聞かなきゃため息つきすぎて、過呼吸になるんじゃないかな、ココさん」
先輩は、くるりとペン回しをしながらそう言った。
ペン回しは渚先輩の癖。
考えてるときとか…あとはちょっとムカついたとき。
いつもは、私のつまらない話を嫌な顔ひとつせず聞いてくれるのだが、どうやら今日はとても忙しいらしい。
「それで、どーしたの」
「…生まれ変わったら動物になりたいです」
「…ふーん」
先輩は頬杖をついて、興味がなさそうに私の話を聞いてくれる。
「…ちなみになんの動物になりたいの」
…なんの動物
「……ライオン」
「…ココさんがライオンねー…」
ちなみに、ココさんは私のあだ名。
渚先輩しかそう呼ばないけど。
「だってライオンって強そうじゃないですか?」
先輩は私の顔をじっと見つめる。
…なんかめっちゃ見られてる
そして、何かを思いついたように先輩は言った。