君はロックなんか聴かない

「橋本さん!おはよう、どう緊張してる?」

久間君だ。彼は本番前だというのに堂々としている。これが経験の差だろうか。

「おはよう、めっちゃ緊張だよ、どうしよう」

「大丈夫だよ、練習通りにやればきっとうまくいくよ」

「う、うん、ありがとう」

ステージを見つめる人混みの中一瞬石原アイナと目が合う、お互いすぐに目を逸らす。アイツにだけは負けたく無い。グッと奥歯を噛み締める。嫌いだが無視出来ない存在だ。ふつふつと心中が燃え上がる。
そして人混みに紛れる。ロキとプラチナの出番は終盤。私たちはそろそろ準備に入る。また大きく深呼吸をする。「よし」えみちゃんに目で合図する。青田さんと白石さんにも指で合図してリハーサルに向かう。
「ああ、緊張する」

「うん、ヤバイね」

「でもさっきのバンドより多分私たちの方が上手いと思う」

「ううん、どうだろう、私、ミスしたらゴメンね、先に謝っとくね」

「私も、うん、謝っとく」

「ねぇ。みんな大丈夫だよ、練習じゃみんなうまくいってたよ自信を持って、大丈夫、大丈夫、ミスっても死にはしない、ライヴ楽しもう!」

「うん、そうだね」

Bスタジオでリハーサルを始める、手が震えて、なかなかギターのチューニングが決まらない。落ち着きたい。