フェスまでは時間が無い。エントリーは済ませたが、いまいち曲が完成していない。私はその不安が隠しきれてなかった。普段の学校生活もパッとしない。ふうっとため息が出る。

「調子いい?」久間君が話かけてきた。

「うん、まあまあだよ」精一杯強がって見せた。

「そう?飲む?」ビンの清涼飲料を渡された。まだ冷えている。私のために買って来てくれたのだろうか、分からない。

「え、うん」

「なんかあったら話聞くよ」

「え、うん」そう言って立ち去っていった。凄い。顔があつい。一瞬の出来事だった。これがモテる男の姿、何も出来なかった。あの人はステージを降りてもスターはスターなのだ。包容力と破壊力私もああなれるだろうか、恐らく誰にでも優しいのだろう、誰にでも気が利くのだろう、もしこの世界が漫画の中だったら間違いなく彼は主人公だろう、悔しいがとても神々しくとても尊い。私も見習わないといけない。
視野を広く持ち、誰かに手を差し伸べられるそんなミュージシャンになりたい。そして強く美しい女性になりたい。

 そうは言ってもなかなか余裕を持てない日々を過ごしている。もらった飲み物を一気に飲み干す。冷えて美味い。炭酸が心地良い。