君はロックなんか聴かない

白石さんとは廊下ですれ違った。

「曲聴いたよ、カッコ良かった!練習も初めてみたよ」

「うん、ありがとう」

でも一曲ではダメだ、あと何曲か作らないといけない。時間はない。私は今音楽に完全に惚れ込んでいる。幸せを感じている。

「出来たみたいだね」久間君に話しかけられる。

「え?」

「表情で分かるよ」

「え、本当?」

「うん、ぜんぜん違うよ」

「そう」

「変わった?世界?」

「うん、ぜんぜん違う、ありがとうね」

「うん、早く聞きたいな」

「うん、バンドフェスでね、久間君たちも新曲作ったんでしょう」

「うん、こっちもヤバイよ、楽しみにしてて」

「うん」

空はスッキリと快晴だ。鳥もこれなら心地が良いだろう、遠い空で鳥が2羽、羽ばたく何の鳥だろう、そこまでは分からないでも大きく羽を広げて気持ち良さそうだ。私も夏空に飛び込んで見たい。今ならきっと飛べそうな気がする。

しかし授業は今日も退屈だ。テストはほとんど平均点、毎日同じことの繰り返し、永遠の板書。早くスタジオに行きたい。世界はこんなに輝いているのに私は廓の中の鳥。早く大空に飛び立ちたい。

こんな紙切れに何の意味があるのだろう、私の価値を図る物差しはここにはない筈だ。