時の振り子は遡る。

10年前の話だ。

花形未来 5歳

それもまた浜辺で聞いた音楽だった。心地よい歌声。花形詩織10歳その幼い歌声は未来にとってもアイナにとっても凛々しく偉大に聞こえた。
地平線のことなんて忘れて未来とアイナは砂遊びに夢中だった。
未来にとっては音楽とは当たり前の中に存在していた。波の音、風の音、世界の音、全てが未来を作る音楽だった。
遠くで光る雷鳴。目を奪われる。泣き出すアイナ。それが未来にとって最古の残された記憶だった。


母はピアノの先生だった。歌の練習をする姉の元でそれを二人は眺めていた。二人にとって歳の離れた姉は偉大な者だった。尊敬もしていたし憧れていた。
未来もアイナも真似をしてピアノを弾く。拙いがそれは徐々に丁寧で美しいものに変わっていった。
年齢を重ねるほど鋭く繊細に子供だけの発表会に出れば何度も章をとった。10才の頃には父がやっていたギターも始めた。
それも直ぐに才能が発揮された。
「アイナちゃんもギターやったら」
「私には無理だよ」
「簡単だよ、ほら、教えてあげる」
そうやって毎日音楽を始めた。その頃は文字通り音を楽しんでいた。
「アイナちゃん、一緒にバンドやろうよ」
「バンド?」
「そう!バンド、アイナちゃんがギターでお姉ちゃんがボーカルで俺がベース、ドラムは父ちゃん」
「ベースって何?」
「ベースはギターみたいな弦が4本あるやつ」
「ベースの方が簡単?アイナベースがやりたい」