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「凌ちゃん、ちょっといい?」




佳世と惜しくも敗れた試合を振り返っていた時、不意に後ろから声をかけられた。

顔を見なくても誰かってことくらいわかる。

そして、その声がいつになく真剣だってことも。




「どうしたの?」




少し声が上擦るのを感じながら振り返ると、いつもより真剣な表情の秀弥くんが目に入る。

秀弥くんはチラッと佳世を見ると、申し訳なさそうに口を開いた。




「悪い、んだけど…佳世ちゃん、ちょっと外してもらえる?」



「うん!わかった!凌、教室にいるね!」



「あ、うん」




佳世の声に軽く返事をする。

歩き出した佳世の方を見ると、ぶんぶん手を振りながら校舎の中に消えていった。




「可愛いよね~、佳世ちゃん」



「え?」



「あんなに大きく手振っちゃってさ~」




クスクス笑う秀弥くんに、私は愛想笑いで返すことしかできないの。

秀弥くんが佳世を“可愛い”って言うのはいつものこと。

それに、佳世が可愛いのは私が一番よくわかっているのに。


気付けば、無意識にキュッと唇を噛みしめる自分がいた。