……なんで陽名蒼空がいるんだろう。
昨日は遅刻ギリギリに登校してきたのに。
それはたまたまなのかな。
当然のようにフルシカトして自分の席に座る。
「なぁ、宿題やった?」
……は?
こいつ宿題するタイプなの?
昨日だって授業中ほとんど寝てたし、教科書すら開いてなかった。
「妃夢乃って好き食べ物なに?」
そんなの聞いてどうするんだ。
…っていうか、なに私もちゃっかり話聞いてるんだ。
それでもまた、昨日のようにしばらくすると話し掛けるのをやめた。
それは次の日もその次の日も、何日も続いた。
そして私は、陽名蒼空の優しさに気づいてしまった。
いつも途中で話しかけるのをやめるのは飽きたとかそういう訳ではなく、登校してくる人が増えるとやめていた。
ここ数日で噂はほんとなのだと再確認した。
陽名は驚く程に女子に絡まないのだ。
ファンらしき女子がどれだけ着飾って話しかけても、プレゼントを持っても、告白をしても、顔色1つ変えずに相手にしなかった人が、
私に話しかけてるなんて姿を見れば、怒り狂うだろう。
女子の妬みは怖い、ということを知っているらしい。
私は別に周りに群がられなければ平気だけど。
そして陽名蒼空は、両親についての話をしてくる事はなかった。
恐らく噂で亡くなっていることや飛び交っているあらゆることを周りの女子から聞いていることだろう。
ただ単に興味がないだけかもしれないけど、それがなんだか嬉しかった。
陽名蒼空は氷のように固まっていた心を温かい心が溶かし、とても明るい光を持って、鍵を明けに来た。