「進藤さんはかなりの大病をされて、その間に受けた身体的なダメージは大きいです。妊娠することができてもすでに高齢出産の域に入る年齢ですし、無事に出産を迎えられるかは正直専門医の私でもわかりません。あくまで、検査の結果からすると妊娠も出産も可能な範囲というだけです。」
「先生」
俺は口を挟まずにはいられず、医師に話しかけた。
そんな俺の方へ視線を移す京香の瞳が不安そうに揺れている。
「俺は妻の命のリスクがあるのなら、妊娠も出産も希望しません。」
心の中で京香に謝りながらそう言葉にする俺。

その言葉に京香は視線を自分の握りしめている手に下げた。

「ご家族で話し合いは必要と思いますが、ご主人。」
「はい」
医師は女性で、穏やかな表情で俺を見つめた。
「妊娠や出産には常に、誰にでもリスクがつきものです。」
「・・はい」
「女性として、愛する人の子供を産みたいと思う気持ちをご主人はお分かりですか?」
「・・・わかっています。わかっているつもりです。妻が結婚する前から、病気になる前からそう思ってくれていることもわかっているつもりです。でも、病気に勝つことも奇跡のような出来事だった。また、妻の命を危険にさらすのは怖いですし、避けられるならリスクは避けたいんです。」
俺は隣で京香が泣き出していることに気が付き、京香の手を握った。