私の隣で海璃が自分の膝の上に置いている手にギュッと力を込めているのが分かった。

「でも」
医師は言葉を続ける。

少し表情が和らいだのを私たちはかすかな希望のように感じた。

「全力であなたの命と私は向き合います。ここにいるご主人の熱意には負けました。」
医師が海璃の方に視線を向けて笑う。
「いやー、ここまでしつこい親族の方ははじめてです。」
「・・・すみません」
少し照れたように頭をかく海璃。
「私も一人でも多くの命を救いたいと思っていますが、医師と患者もめぐり合わせってあるとおもうんです。出会える患者と出会えない患者。それだけじゃない。ここまでしていただいても助けられる患者と、助けられない患者がいるんです。」
「・・・はい」
「でも、どの命も助けたい。」
「はい」
医師は急に真剣な表情になる。
「私も思い出しました。その情熱を。あなたに会って。」
海璃を見ている医師。海璃も真剣に医師の方を見ている。