並木道、鳥のさえずりが満開の桜の木々の間をすり抜ける。今日から新学期が始まるのだ。中澤隆人は、少し早く家を出ると、学校に向かった。それもそのはず、彼は生徒会長。新入生を迎える準備がある。学校までは、徒歩で20分ほど。いつものようにスマホに繋いだイヤホンで音楽を聞いているようだ。学校が見えてきたとき、彼の前方に大きく手を振る女子がいた。
「隆人ー!遅い。」
肩までのショートに、太陽のように明るい笑顔。隆人は、イヤホンを外しながら気だるげに返事をした。
「んだよ、まだ遅刻じゃないだろ。」
それを聞いた彼女は、隆人の方に向かいながら反論する。
「副会長の私より遅く登校する会長がいますか?」
そう言って、隆人の顔を下から覗き込んだ。彼女の名前は、浜結菜。隆人とは同級生で、副会長、つまり隆人と同じ生徒会役員。しっかりしているように見えるが、実は…というのは、置いておこう。
「久々の学校って、なんか良いよね。そう思わない?って、なんでイヤホンしちゃうのよ!!」
結菜の声を鬱陶しがるようにイヤホンを付けようとした隆人の手を取ると、無理やりにイヤホンを奪い取った。そのあとも、小言を並べていたが、隆人は聞き流していた。