「この前 進藤君の話し 聞いたから。今日は 私の話し 聞いてちょうだい。」

社長は そう言って 話し始めた。

「私が 離婚した時 瑞希は 小学校の3年生だったの。子供だけど。何もわからない年でも なくて。離婚の前の ゴタゴタとか 全部 見てたの。相手の女が 家まで 押しかけてきて。結構な修羅場もあったのよ。」

「……」

「瑞希は 瑞希なりに 苦しんでね。随分 私達に 気を使って。私と主人を 仲良くさせようとして。3人で 出かけようって言ったり。ホント 意地らしくて。可哀そうなこと しちゃったの。」

社長の話しを 聞きながら 俺は 瑞希を思っていた。

「結局 離婚することになって。私達が こっちに来たでしょう。瑞希は 転校して。仲が良かった お友達とも 別れて。まだ 父も母も 元気だったから。私は 戻ってすぐに 父の仕事を 手伝うようになったのね。瑞希のことは 母が 面倒をみて。父も母も 瑞希を溺愛してたから。寂しくないと 思っていたのよ 私。」

俺は 頷いて 社長の話しに 聞き入った。

「本当は あの子 すごく寂しかったのよね。主人のことも 大好きだったから。主人も 瑞希を 可愛がっていたし。瑞希は 信じていたと思うの。あんなに 自分を 可愛がっていたパパだから。いつか また 親子3人で 暮らせるって。」

「……」

「でも 父が それを許さなかった。2度と ここの敷居は 跨がせないって。父は 瑞希にも 主人のことを 悪く言って。苦しかったと思うのよ 瑞希。父のことも 主人のことも 瑞希は好きなのに。2人も 瑞希を好きなのに どうして 仲良くできないのか。子供ながらに 心を痛めて。」


俺が感じた 瑞希の寂しさは こういうことだったのか。

強がりの後ろで 瑞希は いつも 愛されたがっていた。

自分の存在で 愛を 繋ぎ止めることが できなかったから。


「瑞希のせいじゃ ないのにねぇ。ホント 瑞希には 申し訳ないことをしたわ。」

社長は そこで言葉を切って 俺を見た。


「進藤君。瑞希を 大切にしてやって。瑞希 最近 すごく明るくなって。素直になったの。瑞希を変えたのが 私じゃなくて 進藤君だってことは ちょっと 悔しいけど。親の力には 限界があるのよね。」

「社長。親の愛に 限界なんかないです。無限です。社長のお父様も 社長が可愛かったから ご主人を 許せなかったんです。」

「そうね。今になって 少しは わかるわ。進藤君が 瑞希を 傷つけたら 私 許さないもの。」

「ありがとうございます。俺 瑞希に救われているから。俺も 瑞希が必要なんです。」


社長は 温かい笑顔で 俺を見た。


「あの日 わざと 進藤君に 瑞希を会わせたの。」

俺は 再度 驚いて 「えーっ。」と 声を上げる。


「進藤君のこと 良い子だって思っていたけど。あの日 進藤君の話し聞いて。私 確信したの。進藤君なら 瑞希の寂しさを わかってくれるって。瑞希を 気に入ってくれると いいなって思ったの。」

俺は 瞬きをすることも 忘れて 社長の顔を 見ていた。

「まさかね。こんなに簡単に 私の策略に 乗るとはねぇ。」


「一目惚れでした。」

俺の言葉に 社長は 心地良い声で 笑った。