「コーヒーは 飽きたでしょう。お茶にする?」

俺の 長い話しが 終わると 社長は 立ち上がった。

「すみません。その前に トイレ 借りていいですか。コーヒー 頂き過ぎました。」

俺は 笑って 立ち上がる。


「進藤君の 一番の失敗は 麻里絵ちゃんと 話し合わなかったことね。」

社長は 俺に お茶を差し出して言う。

「えっ?」

俺は 自分の 最大の失敗は 

千佳を 抱いてしまったことだと 思っていた。


「人間ってさ。すごく弱いのよ。生きていると 正しいことばかりは できないし。でもさ 進藤君。人って 取り返すことが できるのよ。」

「……」

「もし 麻里絵ちゃんに 全部 話したら。そりゃ 最初は 麻里絵ちゃんも 許せないって思っただろうし。ボロボロに 傷付いたと思うけど。それでも 進藤君が 誠意をもって 麻里絵ちゃんと 一緒にいたら。麻里絵ちゃんの傷は 癒えたと思うよ。そんなに 好きだったのなら。麻里絵ちゃんだって 進藤君のこと 好きだったわけだし。」

社長の言葉は 俺の胸に刺さった。


「結局 俺。悪者になり切れなくて。逃げ出したんです。」

俺は 千佳に見せた 情けない姿を 

麻里絵には 見せることが できなかった。


麻里絵の前では カッコいいままで いたかった。


「まあ。若かったし。仕方ないけどさ。でもさ 進藤君。信用って 取り戻せるんだよ。必ず。」

「えっ。そうかな。信用って 築くのは 大変だけど。崩すのは 一瞬だと思ってました。」

「そうよ。崩すのは 一瞬よ。でも 一緒にいれば また 築いていけるの。離れたら おしまい。もう 取り戻すことなんて 絶対に できないけどね。」


社長の言葉が 胸に沁みて 俺は 動揺してしまった。


その通り。離れたら おしまいだった。


俺は 熱いお茶を 口に含む。