「なに、勝手なこといってんのお前」


お父さんの声ともう一人、その声が重なった。

階段のところから声がする。

桐生くんの声が。


そのまま桐生くんは顔色ひとつ変えないで静かに階段を下りてきて、わたしの前へときた。



「ふざけんなよ。お前がよくたってな、こっちはよくねえんだよ」

「・・海、その口の利き方はやめなさい」

「はは、笑っちゃうよ。俺はこんな思いをしてきたってのに、お前は幸せですからって?そんな甘いこと、通用しねえんだよ」

「海!すいません、この子。ちょっと口が悪くて」



「大丈夫です」そう言おうとしても、桐生くんの言葉がそれを制す。



「この子って。俺、親父の本当の子供じゃないんだしさ。むしろなに?こいつと会えてラッキーとでも思ってんの?なに死んだ母さんと重ねてんの?ほんと気持ち悪い」


「桐生くん・・・」


桐生くんの傷の深さを知ったら、たしかにわたしは甘いことをいったのかもしれない。

昔のように会ってほしいとか、幸せだったとか。