だれよりも近くて遠い君へ


クマのぬいぐるみのほうも、不機嫌そうにこっちを見ている。
買ってもらってすぐはこんな顔じゃなかった気がするんだけどなぁ。
持ち主の気持ちでやっぱり見え方変わるのかな。
ほんとに不細工な顔でこっち見てくるね?
なに?私のこときらいなの?大丈夫、私もあんたなんてだいっきらいだからね。

「春はどれが好きだ?」

顔もうまく思い出せないのは私自身が拒否しているから。
拒否しているのは、拒否されたから。
だけど好きだった記憶って邪魔だよね。
事実としてあったことだから、なかったことにならない。

「しいて言うならこのクマだけど、べつにいらないよ?」

「そうか、これの一番大きいサイズを下さい」

「ねぇ、ほんとに人の話聞かないねお父さんって」

わざとらしくため息をつくと、嬉しそうに笑うその顔好きだったの。
お母さんと三人のときとかほんと楽しかったんだよ。
うまく顔も覚えてないのに、笑顔が好きだったとか、楽しかったとかそんなのは覚えている。鮮明に体に刻まれてるみたい。

「春とは暮らせない」

聞いちゃった後、お母さんが入院してからお母さんに知られないようにこっそりと、お父さんに押し付けた。