しばらくして。
「あー、この学校広いっ」
「改めて見ると…色々あんだな…ここ」
 本当、1周すんのにすごい疲れた。
「…さて、そろそろ…。ん…高槻さん?」
 ぼうっと、一点を見つめる彼女。
「高槻さ…」
「…桜」
「は?」
 すっ、と吸い寄せられるように、桜の木に近づく。
「───……はらりひらりと、落ちる花」
 目を細めて、呟く高槻さん。
 桜の花に、手を伸ばす。
「はらりひらりと、舞う花も…」
 あれは…。
「歌…?」
「咲き誇る花も…んー…」
 視線を落とし、少し悩む様子を見せる。
「…奇跡を残す、花と散る」
 口をついて出たのは、そんな歌詞だった。
 僕がそれを言った瞬間、高槻さんの雰囲気がいつもの雰囲気に戻った。
 まっすぐに、僕を見つめる。
「──…何、邪魔しないでよ」
「…、ごめんね」
 つい、と呟く。
「歌詞、すごくよかったし、なんか…行き詰まってたみたいだったから」
「……気に入らない」
 毒々しく吐き捨てる。
「…けど…ありがと」
 ためらいつつも、微笑む高槻さん。
「……ッ」
 わ……かわいい。
 …あ。
「……いや、大丈夫だよ」
「書き留めておこう」
「え、さっきのを?」
 尋ねると、彼女は頷く。
「出来たら、教えてくれる?」
「……絶対ぇやだ」
「…そっか。まあいいよ」
 ──不覚にも、かわいいと思ってしまった。
 あんなに僕を毛嫌いしているのに…。
 全く、行き先が不安だ。
「じゃ」
 と、ぼくは踵を返す。
「僕、帰るから」
「そう。じゃーね」