「名前は?」
「宮若おとかです。宮殿の宮に、若いで宮若です」
「私は高槻絢音。つい最近、ここに転校してきたの」
そう言うと、彼女はハッ、と息を呑んで、
「あの、噂の転校生が…先輩!?」
目をキラキラさせて、私の方を見ている。
「……恥ずかしいから、やめてくれる?」
「あっ…すみません」
「いや、いいよ」
2人で話しながら歩いていると、いつの間にか音楽堂に着いていた。
「あ、着いた。……宮若さんは、ボーカル部に所属?」
「はい。あと、おとかでいいですよ?先輩」
「……分かった、おとか」
私が呼ぶと、おとかは嬉しそうに笑って、音楽堂に入っていった。
* * *
基礎の発声が終わった後、1年生とペアを組んで授業を受けることになった。
案の定、兄弟も知り合いもいない私はすぐに取り残された。
……誰かいないのかな…。
ぐるりと周りを見渡すと、先程のようにきょろきょろと周りを見ている子が。
「…おとか…」
あの子も、1人。
私は彼女に近づく。
「ねぇ、おとか」
「あっ、絢音先輩…私、余っちゃいました…どうしましょう?」
今にも泣きそうな顔でそう言うおとか。
「……私も余ってるんだ。ペア…組む?」
「えっ、いいんですか?」
「うん」
私が頷くと、おとかは笑う。



