消えた卒業式とヒーローの叫び


「私が頑張って交渉する」


 吉岡くんの足音が止まり、三人はまた一斉に私の方を向いた。

「え、本当か? 大丈夫か?」

 上原くんが心配そうに私の顔を覗き込む。その表情を見ると、やはり自分には無理かもしれないという思いが湧き上がり、一瞬首を縦に振ることを躊躇った。

 しかし、すぐに日彩のことを思い出し、ぎゅっと手に力を込めて言葉を放つ。


「大丈夫……じゃないけど、日彩のために頑張りたいから」

 そうだ。こんなことで負けていられない。自分のためにも、日彩のためにも、私は私を変えてみたいと思ったのだ。

 私の言葉を聞いた大賀くんと吉岡くんは、まだ不安気な表情を残していたが、上原くんだけはすぐにふっと口角を上げる。

「そうか。じゃあ俺も手伝うから。あんまり一人で抱え込むなよ」

 私のことを信じてくれている。何かあれば自分が支えればいい。
 そんな風に思ってくれている気がして、私は胸が熱くなった。


「ありがとう……。どうして皆、こんなにも真剣に向き合ってくれるの? 私部員でもないのに……」


 どうしてこんなにも優しくしてくれるのか、わからなかった。上原くんはまだしも、大賀くんや吉岡くんにとって私は全く関係の無い他人であり、しかも今回はそんな私の妹に関してのことだ。



 ライブ中継も、実現させることはきっと困難なことであり面倒なことだろう。それでもやろうとする理由なんてないはずだ。


 三人は一瞬顔を合わせ、そしてまた私の方へと視線を戻した。


「友達だろ」

 さも当たり前かのように、上原くんがそう言った。眉が一瞬上にあがり、視界が広がる感覚を覚える。


 それに続き、残りの二人も何度も頷いた。


「そうっすよ! それに日彩ちゃんのことも知ってるから尚更っす!」

「例え部員でも友達でなかったとしても、困ってる人の支えになりたいと思うのは普通じゃないかな」

 彼らの一言一言に胸が締め付けられるようだった。ぎゅっと胸元を掴み、思わず視線を下に逸らしてしまう。

 嫌だからとか、ネガティブな思考に陥ったのではなく、喜び溢れている表情を見られることが恥ずかしかったのだ。


 友達。彼らにとって私は友達なのだ。そう思っていてくれたことが嬉しくて堪らない。

 こんなにも喜んでしまっている自分を知り、私がずっと求めていたものはこれだったのかもしれないと、この時強く思ってならなかった。



「皆ありがとう。本当にありがとう……」


 声は震えていた。涙で安定しない声だったが、必死でそう伝えた。

 伝えなくてはならないと、否、伝えたいと思ったから。


 三人もどこか気恥しそうにお互いの顔を見合わせているようだった。

「さ、時間が無い。もう少し具体的に話し合いを進めていこう」


 こうして私たちは、卒業プロジェクトに向けて動き出した。