「はい、ようこそ映画研究部へ」

 スライド式の扉を全開にし、入りやすいようカーテンを持って、反対の手を室内に広げる彼に、正直戸惑った。

 この棟は特別教室ばかりで、生徒の影はおろか外で活動しているはずの声すら届かない。更に一番端の教室で普段は使われておらず、入学してからまだ一度も足を踏み入れたことのない部屋だった。

 あれだけ気になっていた部室に、簡単に迎え入れられている現実が不思議で堪らなかった。

 それこそ、夢であるように。

「し……失礼します」

 申し訳程度の挨拶をし、一切の音も立てぬほど、静かに浮いた上靴を床と接触させる。

「あ! どうもどうもー! 仮入部の子っすよねー?」

 私の気遣いなど無意味だと言わんばかりに、愉快な声が飛んでくる。

 一瞬驚いてそちらを見ると、二人の男子生徒がいた。

 まさか男子三人の部活なのかと、目が回って後退りをする。

「おい、吉岡。怖がらせてるぞ」

 ハイテンション男子に向かってそう言う男は、落ち着いた黒髪で、中指を使い、眼鏡を引き上げる。いかにも賢そうな人だった。

「うっそまじか! ごめんごめん、怖がらせる気はなかったんすよ〜」

 私は今すぐこの部屋から出ていきたかった。

 明らかに場違いだ。仲の良さもそうだが、何より男子三人の中に私がいることがおかしい。

 無理だ、耐えられないと扉に目をやったが、外部との接触を遮断されたように、既に扉もカーテンも閉め切られていた。

 そこに上原が椅子を持ってくる。

「いいよ、座って」

「あ……」

 ありがとうの、“あ”の言葉だけが空気とともに抜けていく。椅子を見つめながら気休め程度に頭を下げ、私は腰を下ろした。