友達が俺の携帯で嘘コクしたらS級美女と付き合うことになった件

*彼女と彼女のお父さん②*
 ――さぁ、始めようか。
 
 ついにこの時がやってきた。そう、《《あること》》を始めようとしているのだ。

「心、準備はいいか?」

「ダイジョブデス!」

 ビシッと敬礼していうが、カタコトの外国人みたいになっている。少し心配だが心の仕事はそこまで難しいことでもないので大丈夫だろう。

 俺が考えた作戦はこうだ。まず、心の部屋にビデオカメラを仕掛け、ゆめと二人きりになる。次に、何とかいい雰囲気を作りだし『夢のことが好きになってしまった』と伝える。すると、ゆめはド変態なはずなので、俺を不純な方へ誘ってくるはずだ。そこで、俺は『実はSMプレイが好きなんだ。ちなみに俺はMだけど』と伝える。ならあいつは襲ってくるから、必死に逃げる。その光景を居間のテレビで生中継だ。
 心には、ゆめと二人きりになるためのサポートと、居間に心の両親を連れて来るのが仕事だ。ほら、簡単だろ?失敗するはずがない。あまりフラグをたてたくないので、これぐらいにしておこう。
 俺が自分で言うのもなんだが、本当にくそみたいな方法だ。

「よし、ビデオカメラ準備おっけー」

「じゃあ、ゆめよんでくるね」
 
 ――ドンドンドン
 
「ゆめー。一緒に遊ぼうよー」

「え、いきなり何。なんか怖い、やだ」

 ゆめは、警戒しているらしく心も苦戦しているようだ。仕方ない、俺も手伝うことにしよう。

「おーい、ゆめちゃ――」

「空牙くん来てたんですか!もぉー、教えてくださいよー」

 勢いよく扉が空いたので、びっくりした。

「何それ!私の時と全然違うじゃん」

「ごめん、お姉ちゃんの声聞こえなかった」

「嘘つき!返事してたくせに」

「細かいことは気にしないの。それより空牙くん私と遊びません?」

「いいよ、俺も今遊びたいと思って声掛けたから」

「やったぁ!ささ、入ってください」

 ゆめは心の方を見て、『ふふ、どうよ』と勝ち誇ったようににやにやしていた。心は『そんなの、別に気にしてないから』と余裕の表情をしていた。そんなことより、ゆめの部屋で遊ぶことになっては作戦が台無しだ。

「ま、まずは三人で遊ばない?」

「えぇー、お姉ちゃんもですかー。まぁ、空牙くんが言うなら……」

「ありがとう。悪いんだけどさ、心の部屋で遊ばない?俺の荷物とかあるから」

「うん、わかった」

 やけに素直で、ちょっと怖くなってきた。

「ゆめ、空牙くんに惚れているのよ」

 ボソッと心が呟いてきた。え、ちょっと待って。ゆめが俺の事好き?じゃあ、前のやつは俺をからかうためじゃなくて、本気だったってこと?

「空牙くんいこ!」

 ゆめはそう言ってぎゅっと手を握ってきた。少しドキッとしてしまった。俺の事を好きだと知ってしまってはどうにも意識してしまう。

「そうだな……」

 ドキってしてしまってごめんよ心。そうだ、これの償いとして、今度心にビンタしてもらおう。
 部屋に入ってから二十分ぐらい経ったので、心にサインを送る。

「あ、友達のヘアピン借りっぱなしだった。ちょっと返してくるね」

 ヘアピン返す!?……おいおい、嘘が下手すぎないか?おまけに目も世界水泳並に泳いでいる。これはバレただろう。

「分かるー、ヘアピン返すの忘れちゃうよねー」

 この姉妹は天性のアホなのか。しかも、ヘアピンってそんなに貸し借りするものなの?ツッコミどころ満載だが、上手くいってよかった。

「心、気をつけてね」

「うん。お姉ちゃんが帰ってくるまで二人とも仲良くしてるんだぞっ?」

 後は、上手くやってくれよ心。

「空牙くん、やっと二人きりになれたね」

「そうだね。ところでゆめちゃん、年頃だから好きな人とかいるんじゃないの?」

 よし自然な流れだ。第一段階は突破だろう。

「……いるよ。大好きな人」

「へ、へぇー。大好きなんだ……」

「あれぇ、好きな人いてガッカリしちゃった?」

「少しはね。告白とかしないの?」

「なんかいつもの空牙くんじゃない感じがするー」

 ジーッとこっちを見てくるが動じない。

「まぁ、いいや。唐突だけど、お姉ちゃんと別れてよ」

「ん?……どうして?」

「好きなの、私……」

 全て知っているぞ、残念だったなゆめ。俺のことを好きなのは予習済みだ。驚きなんてしない。

「私お《《お姉ちゃん》》が好きなの!」

「そうか俺も好ってえぇぇぇぇぇええ!」

「……俺もすって?」

「いや、気にするな。そうか、心が好きなのか……」

 いやー、驚いた。まさか心のことが好きだとは。そんなもの全く予想していなかったぞ。すごいぞゆめ。

「だから、別れて欲しい」

「ごめん、それは出来ない」

「どうして?身体なら私が貸すから……」

「身体なんて要らないし、そういう問題じゃないんだ」

「でも、こんなにもお姉ちゃんのこと好きなのに……」

「俺だって、心のことはゆめちゃんに負けないくらい好きだ。だからこそ、そのお願いだけは聞けない」

「そういえば、前に私が誘惑したのに耐えたよね」

「当たり前だろ。それと、ゆめちゃんも簡単にそういうことやっちゃダメだよ?自分をもっと大切にしてね」

「空牙くんはお姉ちゃんのこと本当に大好きで、どんな事があっても守る覚悟ができてるんだよね?何より、お姉ちゃんのこと幸せに出来る自信があるんだよね?」

「当たり前だろ。今ここで誓おう。絶対に心のこと幸せにしてみせるよ」

「はぁ……合格です!ですよね、お父さん」

「え?」

 後ろを見ると、ゆっくりと扉が開いた。そこには心のお父さんが立っていた。

「あ、あの、これは一体……」

「すまなかった」

 心のお父さんは深く頭を下げていた。

「そんな、お顔をあげてください。別に気にしていませんから」

「それは出来ない。自己満かもしれないが、こうしないと俺が自分自身を許せない。本当にすまなかった」

「それより、誤解が解けて本当に良かったです」

「君はいつも来ていくれていたね。こんなに頑固な俺を諦めないでくれてありがとう。それと心を頼む」

「はい!」

俺は全力で返事をした。心のお父さんは納得したのか、笑顔だったが、涙も流れていた。

「ふふふ、論より証拠ですよ、空牙くん」

「ゆめちゃん……もしかしてこれは」

「そうだよ、私が考えたの。お父さん頑固だから言っても聞いてくれないからね」

「ゆめちゃんありがとう」

「お礼なんていらないです……私が原因みたいな所あるので」

「それもそうだね。ちなみにゆめちゃんは心が好きってのは本当なの?」

「ち、違います!まぁ、姉妹としてはすきですよ?でも、他に好きな人いるし……」

 最後の方はよく聞き取れなかったが、心のことを恋愛対象に見ているわけではなかったようだ。

「ふっふっふ、全て計画通りです。空牙くん誤解が解けてよかったね」

 心はドヤ顔で登場し親指を立てていた。一番何もしてなのに、あまりに堂々としていたのでちょっと笑ってしまった。一応俺も親指を立て返しておいた。

「今日は鍋パーティーですよー!肉をたっぷり入れましたから早い者勝ちですよ!」

 下から心のお母さんの声が聞こえてきた。

「肉は私のもんだぁー」

「お姉ちゃんは負けないから!」

「二人とも落ち着いて」

「はっはっはー。ワシも負けないぞ?」

「早く来てよー。お母さん寂しいからぁ!」

「「「「はーい」」」」

 みんなで元気な返事をして、階段を駆け下りた。