友達が俺の携帯で嘘コクしたらS級美女と付き合うことになった件

*彼女と彼女のお父さん①*
「俺は絶対に認めんぞ」

 どうしてこうなってしまったんだ。俺は額からにじみ出る汗をひたすら拭う。

「誤解です、本当に誤解なんです!」

 必死に説明するが、相変わらず『認めない』の一点張りだ。もう誤解を解きに来て四日がたっている。頑固だと聞いていたが、ここまでとは……娘を思う気持ちはわかるが、すこしは俺の話も聞いて欲しいものだ。

「どうしたものかねぇ……」

 俺は死闘の末、《《あること》》を実行することを決める。
 
 
 *
 
 
 遡ること四日前。俺は心の家に行くことになっていたのだ。お付き合いしている彼氏を家族に紹介したいとの事だった。

 とても緊張するが『いずれは通る道だ』そう自分に言い聞かせる。

「うちのお父さん、めっちゃ頑固なんだよねー。で
も根は優しいから安心してね」

「心のお父さんだもん、優しいに決まってるよ」

「あ、今日多分妹もいると思う。とにかくうるさいから気をつけてねー」

「えぇ、妹いたんだ。わかったー」

 心に妹がいたとは。心に似てとても可愛いんだろう。

「ゆめって名前。今年受験があるのよね」

「ほぉ、受験かー。大変だな。ちなみにどこ受けるの?」

「私たちと一緒の霧野丘《きりのおか》高校だと思う。仲良くしてあげてね?」

「もちろんだよ」

 そんなたわいない会話をしているうちに家に着いたようだ。やばい、すごく緊張してきた。

 ――ガチャ

 扉を開けただけなのに心臓が爆発しそうだ。『失礼のないように、失礼のないように』と何度も心の中で唱える。

「ただいまー。じゃじゃーん今日は彼氏の若松空牙くんがきてまーす」

「あら、いらっしゃい。空牙くんだっけ?かっこいいわね」

 お出迎えしてくれたのは心のお母さんのようだ。すらっとしていて、ところどころ心と似ている。特に胸が。心の胸はお母さんの遺伝で間違いないだろう。俺は急いで余計な考えをかき消した。


「こんにちは。心さんとお付き合いをさせて頂いてる若松空牙と言います」


 ふぅ、危ない危ない。初っ端から失敗してしまうところだった。あらためて気を引き締める。

「あらやだ、そんなかたぐるしくしないでいいのよ未来の旦那さん」

 そう言って、チュッと投げキッスをしてきた。俺が心の方をチラッと見ると、『あちゃー、お母さんのことも伝えておくべきだった。投げキッスのことは忘れて?』という顔をしていた。

「空牙くん行こ。私の部屋は二階だから」

 頷いて、心について行く。居間を通り抜けようとした時、異様な圧力を放つものがあった。どうやら心のお父さんが新聞を読んでいるらしい。
まだ、ラスボスに挑む準備はしていない。早く二階へ行ってヒットポイントとマジックポイントを回復しないと。これがゲームなら詰んでいただろう。俺と心は気づかれないように、ゆっくりと進んだ。

「ふぅー、危なかったね。初めてお父さんの耳が遠くてよかったって思った」

 心はケラケラ笑いながら、扉を閉めた。俺は一つ聞いておきたいことがあったので質問する。

「いつお父さんに挨拶すればいいかな?」

「そうだね、少しリラックスしてから行こう。あと、お父さんに彼氏が来ること言ってないの」

 心は頭に手を当て、てへぺろと舌を出していた。めちゃくちゃ可愛いが、こればっかりは許す訳にはいかない。一言言おうと思って口を開けようとした。

「心これは――」

「ごめん、ちょっと言うの怖かったの。でも、本当に空牙くんとのこと認めてもらいたかったの。大きくなったらね、け、結婚だってしたいと思ってるし……」

 心は手で顔を隠しながら、モジモジしていた。隠しきれてない耳は真っ赤になっていた。そんなに恥ずかしがられると、聞いてるこっちまで恥ずかしくなってくる。いつの間にか俺の中の怒りは消えていた。むしろ幸せな気持ちになっていた。

「なるほど……」

 なんて返せばいいのかわからず、頷いておいた。

「えー、それだけなの?」

 心はちょっと不貞腐れた様子でベットに入っていった。少し申し訳ない気もしたが、すぐさま別の考えが脳裏を横切った。

 ちょっと待てよ、これは誘っているのか?いや、そんなわけないだろう。ただ拗ねてベットに入っていっただけに決まっている。俺は童貞だから早とちりしているだけだ。そうに違いない。解決したかと思ったが、なんだか視線を感じる。

 その方を見てみると、心が甘えるような目で見つめていた。

「空牙くんの、いくじなし」

 心はぼそっと呟いて布団に潜り込んだ。そんなのずるい。この状況でいかないなら男じゃない。根暗でクラスでも目立たない陰キャの俺がついに童貞を捨てることになるとは――しかも学年一の美女朝日奈心と。

「心、俺もそっちいっていい?」

「……う、ん」

「失礼します」

 何故か無意識に挨拶をしてしまった。何度かキスはしたことはあるが、これはそれ以上のことだ。
 布団をめくると、全身から湯気が出そうな心がいた。俺はゆっくりと布団に入った。心を後ろから抱きしめると、心の体温が伝わってくる。とても暖かいし、すごくいい香りがして、とても落ち着く。
 俺は胸に手を回そうと、そっと動かした。

 ――ガチャ

「おねちゃーん。あぇぇぇええええ!」

 妹が勢いよく入ってきた。俺は死んだと思った。

「ゆめ、これは違うの。えっと、その、一緒に《《寝てた》》だけ!」

 心は必死に誤魔化そうとしたが、『《《寝てただけ》》』はもうアウトだろ。

「ごめん……大事なお姉ちゃんなのに本当にごめん」

 俺は誠心誠意謝った。このことを心のお父さんに知られことは確かだ。もう腹を括るしかないと思った。しかし、返ってきた返事は意外なものだった。

「いや別に気にしないけど、まずノックしなかった私が悪いから。急だったからちょっとびっくりしただけ」

「じゃあ、お父さんに黙っててくれるの?」

「そんなの言わないよー。それでは存分に楽しんでくださいね」

 にやにやしながら、『どうぞどうぞ』と手を動かしている。

「ゆめちゃんありがとう」

「なんで私の名前知ってるの?そっちの方が気になるんですけどー」

 『もしかして妹まで手を出そうとしてる?』みたいな顔で聞いてくる。

「心から聞いたんだよ」

「あー、理解理解」

 今度は『なんだこいつ、面白くないのですねー』みたいな顔で返してくる。いちいち顔の反応がすごい。もういっそ顔で会話した方がいいんじゃないかと思うぐらいだ。

「ばいばーい」

 ゆめは手を振りながら部屋を出ていった。どうも続きが出来そうな雰囲気ではなかったので、たくさん雑談をした。すると、どちらもコンドームを持っていなかったことが判明した。

「どっちみち出来なかったね」

「ふふふ、本当だね」

 笑いながら、じゃれ合う。

「そろそろ行こっか」

「そうだね……」

 俺は心のお父さんに会いに行く。そう、ラスボスを倒しに行くのだ。『勇者空牙ここに誕生』なんてね。深く深呼吸をして居間に向かった。

「あのねお父さん、今日ね私の彼氏の若松空牙くんが来てるの。紹介しようと思って」

「こんにちは。私は朝日奈心さんとお付き合いをさせて頂いてる若松空牙と申します」

 心のお父さんはジロっとこっちを見てきた。俺も怯まず、見続ける。なんだか真剣なにらめっこをしているようだ。

「お前は心を幸せにできるんか。どんな事があっても心を守る覚悟があるんか」

 心のお父さんの言葉からは娘のことを強く思う気持ちが伝わってきた。すごく良いお父さんだと思う。

「はい、あります!どんな事があっても必ず心さんは私がお守りします」

 俺は今までで一番真剣な顔をしていたと思う。

「そうか、娘を、心を頼んだぞ……」

「ありがとうございます」

「お父さんありがとう」

 二人でお辞儀をして、居間をでた。

「良かったわね、認められて」

 心のお母さんが嬉しそうに声をかけてきた。

「はい。良かったです」

「意外とお父さん優しかったよ」

「そうだ空牙くん、夕飯食べていくでしょ?」

「え、そんな……悪いですよ」

「空牙くん一緒に食べよ?」

 他ならぬ心の頼みとなれば聞くしかない。

「では、お言葉に甘えさせていただきます」

「心、ちょっと買い出しに行ってきてくれない?」

「私が行きますよ」

「空牙くんは部屋でゆっくりしてて。私が行ってくるから。それで、何買えばいいの?」

「そうね、今日は鍋パーティーでもしましょうかね」

「了解。適当に具材買ってくるー」

 心はそう言って去っていった。ここに居ても気まずいので、仕方なく心の部屋で過ごすことにした。

 ――ガチャ

 心が帰ってきたのか見てみると、そこにはゆめがいた。

「ねぇ、お姉ちゃんのどこがいいの」

 そう言いながら、どんどん俺の方へ迫ってくる。もう俺たちの距離は数センチだ。

「あの……ゆめちゃん?」

「私、空牙くんに一目惚れしたの。どうせお姉ちゃんとエッチできてないんでしょ?私としない?」

 ゆめは腕を首元に回してきて、キスをしようとしてきた。

「ちょっとまって、それはダメだっ――」

 ――ガチャ

「心ちょっと話しが……」

 扉の前には心のお父さんが立っていた。これって夢かドッキリだよな?こんな災難なことあるわけない。『テッテレーン!ドッキリ大成功!』とかのパターンだよね。

「お前、ゆめにまで手を出していたのか……」

「誤解です、誤解なんです!」

「そんなもの知らん。さっきお前を信じてしまった俺が情けない。――今すぐ出ていけ!」

 その日は何を言っても聞いてくれないので、帰るしかなかった。心には後からメールを入れておいた。

「とりあえず、誤解を解くしかないかぁ」

 下を向いていては何も上手くいかない。『どんな手を使ってでも心との交際を認めてもらう』この気持ちが俺の背中を押してくれた。