リリンーーーー

軽い鈴の音を立てて扉は開いた

ここは”BAR After the Rain”

勤め先近くの少し隠れたBARだ。
マスターは渋く優しいおじ様 高月さん。
私の秘密を知ってる1人。

「おせぇ。」

聞きなれた不機嫌な声が耳に届く。


はぁ?!
こっちは急いだってのにふざけんなよ

って言いたいのを我慢して
「ごめん。」


「待たせんなよ。
来るって分かってただろうが。
帰ってんじゃねーよ。」

冷たく言い放つこの男が私の所詮”好きな人”ってやつ。

「なら、連絡もっと早くしてよ。
もう22時よ?」

そう返しながら今夜もこの男に会えたことで私の鼓動は早くなってしまっている。

いつもの席に座ると目の前に好きなお酒が置かれていた。

「頼んでてくれたの?」

「いつもそれだろ。ここなら」

ムカつく。
私の全てを見透かされてるような気がしてムカつく。
でも、好みを覚えてくれていたのがなんとなく嬉しかった。
熱くなった頬を誤魔化すように私はお気に入りの”ジンライム”に口をつけた。

「さっき」

ぽつりと、彼が呟く

「ん?」

「さっき仕事終わったんだよ。
悪かったな。連絡遅くなって。
葵の事だからまだいるかと思ったんだよ。」

私には目もくれず出されたチョコを美しい指で弄びながら聖は私に言った。

「そっか。お疲れ様」

カチンーー

お互いのグラスを軽く合わせ何かの合図のようにお互い味わう。

これが私の幸せ。
私、向崎 葵(ムカイザキ アオイ) 24歳の幸せ。