ガチャ…

「あっ、目覚めた!」

ばっ!
急な声に思わずベッドから飛び起き威嚇しながら視線を定める。

「野生の狼みたい(笑)」

コロコロ笑いながらお盆に乗せた白湯とお粥を寝台脇のテーブルに置くマキアージュ。

……少女?

警戒は怠らないが様子を探ると艶やかな金の髪を掬い上げた深いブルーの瞳の少女がモスグリーンのワンピースに編み上げのブーツを履きエプロンを身に付けそこにいた。自分とは真逆で警戒心の欠片も見られない。見ず知らずの成人男性と二人きりであるというのに。

「何日飲まず食わずで居たのか知らないけどその威嚇解きなよ。まずはい、白湯だよ」
「……っ?なにを!」

騎士の自分が反応出来ないほどごく自然に間合いに入ったかと思うと湯飲みを片手に、反対の華奢な指でさらりと前髪を持ち上げられたではないか!

「あっやっぱり!あなたの瞳、私の髪の色と同じ。そして私の瞳とあなたの髪の色も同じ!不思議ー♪」

気のせいだろうか、高らかに笑う少女の鈴がなるような声に部屋の中にふわりと恐ろしく気持ちが良い風が吹き抜けた。ただの風が気持ち良いと感じたのは子供の頃以来では無いだろうか……

「うん、警戒心解けたね♪ほんとあなた狼みたいだ(笑)」

ごく自然に手渡された湯飲みに口をつけるとよほど欲していたのだろう、するすると喉に流れていく。
そして、はた…と気づいた。助けられたお礼を言ってないことに。

「先程は警戒してしまいすまなかった。助けてくれたというのに不躾で気を害ししたろう」
「改めて礼を言う。俺はマルクス国第二騎士隊長ライアン・キュリーという。とある任務の途中に獣に襲われ不慮の事故に遭い遭難したのちに貴女に助けられたようだ」
「わー、予想通りだ」
「ん?」
「いえ、何でもー」

口元に拳を当て笑いを噛み殺しているように見えるのは気のせいだろうか。
改めて少女を見ると染みひとつない白い肌に美しく整った顔立ち、そしてしなやかな体つきに似つかわしくないこれからどんどん育つであろう実りを携えた妖精のような子だ。王都では18前後が女性の結婚適齢期とされているため若干若いようだが好みの範疇であると考えてしまった自分に反省する。

「名前を聞いてもいいだろうか」
「マキアージュ」
「では名を呼んでも?」
「聞くまでもないでしょ!」

初めて会った女性には至極当たり前なマナーなんだが。
彼女は心底わからないといった様子だ。

「マキアージュ、君のご両親は?俺を運んでくれたのだろう?お礼を言いたい」
「いないよ?」
「えっ?」
「去年じぃさん死んだから独りで住んでるもん。あ、私じぃさんに拾われたから血は繋がってないけど」

なんてことだ。と思って驚愕している自分に反して本人はなんてことないって顔でベッドの端に腰かけたマキアージュにお皿を差し出される。
「食べれば?」

「君はもう結婚を視野にできる年齢だろ。そんな女性の独り暮らしなんて野党に狙われたら……」
「こんな道もない山奥に野党なんか住めないよ(笑)」

またもやコロコロ笑うマキアージュを呆然と見つめながら無意識に皿を受け取っていた。