とまぁ、冒頭に戻るわけだけど……

ん~?なんか色が違うなぁ。確か趣味悪い若葉色だったはず。汚れて色変わったのかなぁ。

呑気に考えながらスィーっと泳いで近寄ってみる。でも段々大きくなるそれは立体的で……

「人じゃん!」

薄汚れたボロボロ服。顔半分水に浸かったような状態で倒れてる、深いブルーの髪が海藻のように漂っているのがわかる。

「ありゃー。遭難でもして迷い込んで獣にでも襲われたかぁ?生きてないだろ」

緊迫感の感じられない、なんとも適当な解釈である。

物心ついてこんな状況に遭遇したのは三度目である。
過去二度は既に息絶えた後だったため、じいさんと埋葬した。きっと今回もそうだろうと勝手に結論つけ急ぐこともしない先走り思考……あの世からじいさんの雷確定案件である。

「どれどれ…」

スィーっとご遺体だろう人物に近づくと漂っているブルーの髪を掬い上げ自分の耳を相手の口元へ寄せてみた。男性だ。
この湖は円柱形をしており陸に近くとも足は付かない(修行時代の暴発で出来たものなのは内緒で)。よって、端から見るとなんとも赤面チックな絵面だが……

「………ん」
「うぉっ!生きてた!」

急に耳に当たった吐息にビックリして顔を向けるとそこには……

「イケメン!!」


なぜ人と交流を持たないマキアージュがイケメンという単語を知ってるかと言うと、流れの行商おっちゃんに毎回頼んでるもの、雑誌のなかの〔都の女子が憧れるお付き合いしたい男性ベスト20〕特集の大ファンだからである。
国王はじめ皇族から配達のお兄さんまで粒ぞろいの個性派な面々の絵姿を眺めるのが現在単独首位の日課だ。

一度背けた顔を恐る恐るまた向けてみると…あちこち泥や傷は有るものの、実に端正なお顔立ちがそこにあった。
年の頃は…20代の前半位だろうか。

「うっ…」
途端にその端正な顔が苦痛に歪み、マキアージュはやっと観察に夢中になってる自分に気づいた。

「ふふっ…イケメン、ひーろった!」

水中から右手をつき出すと人差し指を高らかに掲げ、愉快なマキアージュの声が辺りに響いた。
その内容はともかく、鈴がなるような清らかな声に大気が歓喜に震えた。
周りの空気が男性とマキアージュの回りを取り囲むように動き始めその身体がフワリと宙に浮いたではないか。

「我が家にご案内~!♪」

かくして、イケメン認定の彼はマキアージュによって拉致…もとい、保護されたのだった。