ライアンは森をさ迷い歩いていた。

ー何でこんなことになった…ー

小屋を出て数時間、順調だった。方向感覚もあるし気持ちにも余裕がある。これなら獣を土産に帰れるだろう…そんなとき雨が振りだした。とても強い雨が、マキアージュが言ったとおりだった。
前もよくわからない、元来た道もわからない、右往左往するしかないのだ。

ーマキアージュ…ー

意地を張らず言うことを聞いていれば良かった。そうしたらあの幸せな甘い日々は続いたと言うのに…
甘い日々…?

なにを俺はそう思っていたのだろう。

ふわりとした思考で悪路を歩いたのがいけなかった。

「あっ…」

お決まりではないか。ぬかるみに足を取られその先は崖だとは……思えば魔女討伐に赴いて悪運が付いたのだった。マキアージュと共にある日以外は。
全く下が見えないとは…恐ろしいものだな。マキアージュ。

奈落に吸い込まれそうになりながら想ったのは彼女の笑顔だった。俺の悪運を吸い取ってくれていたのは君だったのかな…

程無く情けないことに意識を持っていかれた。次に目覚めるときはきっとあの世でだな。




……長!隊長!


「……ん」
「ライアン隊長!しっかりしてください!」

見たことない天井、寝慣れないベッド。
ここは…どこだ?

「隊長!良かった、気づかれたぁ」

なんだかガヤガヤうるさい。
日が眩しくて二度と瞬きをした。

ゆっくり辺りを見回したが……誰だ?

「もう2ヶ月近くも行方知れずで死んだかと思いましたぁ!」

ベッドにすがり付く男に見に覚えは…ない。

「誰…だ、お前」

その言葉に男はさっ、と青ざめしがみついてきた。

「隊長!なにいってんすか!レオナルドです、レオですよ。隊長の部下です!第二部隊の副隊長ですよ!」

栗毛、栗目の男が泣き目……よくわからんが疲れる。

「お前など知らん。悪いが出ていってくれ」
「隊長!」
「俺は帰らねばならないんだ……」

口にして、はたと気づいた。
どこへ帰るんだ?俺は……

「ははっ……」

そう言えば名前も出てこない。
俺は……誰だ?何処へ帰ろうとしていた?

「あぁー!!」
「隊長!」

頭の中に叫ぶものがいる。頭が割れる。
そのまま、また気を失った……