「いいよー筋肉!喜んでるぅ!」

魚取りに負けたからマキアージュの願い…それは鍛練に欠かせない腕立て伏せの背中に乗ることだった。
俺の背中にちょこんと乗っかり付加をかけて楽しんで要るのだろうが…いかんせん軽すぎて何も思わない。

「あぁ、そこで頑張ってる君!大好き!」

どしゃっ……

「あれ?重くて疲れた?ごめん、どける」

事もあろうか100回足らずでダメージを受け潰れた俺の背中からあんなに軽い娘がいそいそ降りるとは……

「ダメだよ」

降りかけた最後の足を掴んで引き留めた。なんとも頼りない細い足だ。

「合間に腹筋を」
「乗っていい?」

やけに嬉しそうに腹に座ったマキアージュ。何でそんなにまた…

ふへへ、筋肉を堪能できるぜと脳内ふりきれたマキアージュの思考なんか知る止しもない。

「始めー」

マキアージュの声に腹筋を始めたのはいいが…まずいだろ。
身体を上げる毎にマキアージュの顔が迫る。いや、その前に二つの丘が……拷問か。そうだろう。

ライアンの好みは第一に括れである。同等にたわわな二つの実り。と同じくらいに、顔、と同じくらいに性格。
実に我が儘だが残念なことに全部揃ったやつが己の腹の上にいたら…

ー拷問か……ー

顔を上げる度に近づく実り、その先に好みの顔、そして真下には確実に括れ…とどめに…

「すっごい筋肉動いてるー♪」

紅葉した頬にキラキラした自分の髪と同じ瞳に……騎士道精神の意地を見せる嵌めになった。


「……はぁ」

限界だ。鍛練とは己を律する物だと思ったが、煩悩に悩まされるなんて…

「疲れたならご飯食べよう♪」

何やらホクホクと満足そうに調理場へ行くマキアージュ……
いったい俺は何をしているんだろう……

衣食住は整えて貰っているが頼ってばっかりではダメだ。
狩りでもしてこようか…

「マキアージュ…」
「なに?」

振り向いた笑顔に固まる。なんだこれは…女神だろうか?マキアージュである。

「すぐ出来るよー」
「俺は単身で狩りに行こうと思う」
「ダメだよ、これから雨が降るから」

事も無げに言うが…

「いや、大丈夫だ」
「ダメだって」

パシッ

「行くと言ったら行くのが騎士だ」

マキアージュの可憐な手を払ってしまった。
痛かったろう、その手をさすり俯いたマキアージュの物悲しさと言ったら…後悔しかない。

「行けば」
「…あぁ」

それからはお互いに無言だった。
大した装備もないがジジ様が使っていた弓と鉈、それと自分が最後まで持っていた短剣を装備して部屋を出ると…

「はい…」

作りたての弁当だった。

「すまない…」
「……」

今までで見たことないような悲しい顔をしたマキアージュ。
スッと前に出ると音もなく腰に携えた短剣に指を這わせた。

「ライアンは大丈夫」
「え……」

踵を返して奥に引っ込んでしまったマキアージュを気にかけながらもこの森で始めての狩猟に出発した。