氷の美女と冷血王子

「社長はまだ若いが仕事のできるいい人だ。俺も何度か会ったが、いつも穏やかで、もちろんカタギだ。ただ、社長のおやじさんは関東一縁をとりまとめるやくざの組長で、名前を聞けば誰でもわかるほどの大物」

ふーん。
「でも、その会社には関わっていないんですよね?」

「まあな」

あれ?
歯切れが悪い。

「経営自体には一切関わっていないが、新しい機械の購入時にいくらか資金が入っていたらしい。もちろん、組みからとしてではなく、おやじさん個人が息子のために調達した個人的な金なんだが・・・」

「それって、マズいんですか?」

親が子を心配するのは当たり前に思うし、自分のできる事で応援したいと思うのも親心でしょう。

「来週発売の雑誌に、『黒い金の流れ』って記事が出るらしい」

それはマズイ。

事の善悪は別にして、表沙汰になれば仕事には影響するだろう。
反社会性力って企業にとっては禁句のようなものだから。

「専務は、どうするつもりですか?」

このまま諦めるには、事業計画が進みすぎてしまった気がする。
どんなに頑張ってもある程度の損失は出るだろう。
そうなれば誰かが責任を・・・え?

「やれるだけやってみるさ。記事が出るまでに潔白の証拠を集めて、上層部を納得させられればいいし、もしできなければ新規事業も俺の首も飛ぶ」

やっぱり。
そういうことか。

きっと副社長の挑発に乗せられて、『責任をとる』って言わされたんだ。

「とにかく、俺は出かけるから留守を頼む。何かあったら携帯にかけてくれ」
「はい」

一言二言文句でも言ってやろうかと思ったけれど、専務の顔を見ていると言えなくなった。
自分の立場が危ういのも、状況が悪いのも承知の上で挑んでいこうとしている人にかける言葉はなかった。