氷の美女と冷血王子

「青井君。しばらく、電話は取り次がないでくれ」
徹が出て行ったあと、しばらく考え込んでいた専務がやっと口を開いた。

「すべてですか?」
「ああ、社長からでも、取引先からでもつながなくていい。君の方で対応しきれないようなら、徹に確認してくれ」
「承知しました」

専務のはっきりとした口調は、どこか決意のようなものを感じさせる。
それだけ切羽詰まった事態だと理解できた。


「なあ、」
「はい」

仕事中とは違う声のトーンに、自分のデスクに戻ろうとしていた私の足が止った。

「もしかしたら、俺はこの会社を去ることになるかもしれない」

え?
驚いて振り返った。

専務は鈴森商事創業者一族の5代目。
誰もが将来の社長だと思っている。
それが覆るようなことが起きたってこと?

「俺がすすめていた新規事業の取引先に問題が起きて、契約できなくなるかもしれないんだ」
「契約ができないってことは、」
「新規事業自体が頓挫するだろうな」

「そんな・・・」

私は、専務がどれだけの時間と労力をかけて準備してきたのかを知っている。
会社の将来にとって必要な事業だってことも理解しているつもり。

「何があったんですか?」
立ち入ったこととは思いながら、聞かずにはいられなかった。

「今回取引を予定していたのは起業して10年ほどの会社だ。大手が七割以上を占めている製紙業界の中ではめずらしい新しい会社。規模もそれほど大きくもないが、新しい機械をドンドン入れていて、多様なニーズに応えられるように複雑なパッケージデザインにも対応してくれる柔軟性と、高い技術力を持つスタッフのいる会社だ」
「へえー」
専務がこれだけ褒めるからには、きっと素晴らしい会社なのだろう。

「これからドンドン大きくなる会社だと思っていた」

思っていた?

「その会社に何があったんですか?」

「経営陣に反社会性力の関係者がいたらしい」
「えっ、それは、や〇〇ってことですか?」
「いや、直接ではなく、間接的に」

間接的に?
意味がよくわからない。