氷の美女と冷血王子

「古狸ともめた」
「え?」

古狸って河野副社長のことよね。
徹との会話の中でそう呼んでいた気がする。


ガチャッ。
またまたノックもなく、徹が現れた。

「お疲れ様です」
突然の上司の登場に、私は挨拶をしてみる。
「・・・」
しかし、返事は返ってこなかった。


部屋に入ってきた徹は真っ直ぐに専務の元に向かい、デスクの前に立った。
一方専務は視線を合わすこともなく、不機嫌そうな顔のまま。
すると、

バンッ。
徹がデスクを叩いた。

それまで無視を決め込んでいた専務も徹の方に視線を向け、2人とも無言のままにらみ合った。


徹が怒っている。
どんな時も冷静な徹が、本気で怒っている。
これはきっと、一大事。

「青井さん、悪いけれど今日と明日の専務のスケジュールを空けてくれる?」
「は?」

「確か大きな会合は入っていないはずだから、スケジュールをすべて別の日に移して欲しい」
「はい」

確かに、どうしても動かせないような予定はなかった。
なんとかなると思う。
でも、そんなことをして大丈夫なんだろうか?

「とりあえず緊急事態だから、今日と明日は専務を自由に動かしてあげて」
「はあ」
「君には専務が留守の間の対応を頼む。その間俺の方でも調べてみて、何かわかれば青井さんに知らせるから、その都度専務に伝えてくれる?」
「はい」

何がどう緊急事態なのかわからないが、よほどのことらしい。

「孝太郎、お前は自分で自分の首を閉めたんだからな」
専務に向ける徹の口調は冷たい。
「状況は理解している。なんとかする」
淡淡と答える専務。

「俺ができるのはここまでだ。自分の仕事と社長秘書としての立場もあるから、河野副社長との正面衝突は避けたい」
「ああ、分かっている」

どんなに怒っても、徹は専務を心配してるのね。

それにしても、何があったの?