「お願いします、やらせてください」

はーぁ。
こうなったら彼女は何を言っても聞かないな。

「分かった、でも危ないことはするな」
「はい。じゃあ、会社のアクセス権を上げてもらえますか?」

ああ、そうか。
俺の業務に関することは別として、彼女には徹や取締役達の専属秘書のような上級のアクセス権を与えていなかった。

「今日中に手配する」
「ありがとうございます。あと1ヶ月半でどこまでできるかわかりませんが、できるだけやってみます」

ええ?

「あと1ヶ月半で、辞めるのか?」
自分でも無意識に口にしていた。

「ええ、最初からの約束ですし」

しかし、
「君は俺のことが好きだと言ってくれたよな?」
「ええ」
少し顔を赤くして彼女が頷く。

「仕事も楽しいって」
「ええ。とっても楽しいです」

「じゃあ」
なぜそんなことを言うんだ。

「気持ちは気持ち、立場は立場です。私はいつまでも専務の側にいるべきではないんです。ふさわしくないと思いますし、きっと自分が苦しくなると思いますから」
「そんなこと」
やってみないとわからないだろう。

そもそも、お前の気持ちはその程度なのか?
俺はこんなにお前の事で一杯なのに、お前は違うのか?
そう聞きたくて言葉にできない。
『はい、そうです』なんて言われたら立ち直れそうにないからな。

「専務、本当に時間がありませんから食べちゃってください」
不機嫌そうな顔になった俺を避けるためか、彼女はまた朝食の話に戻す。

この女、やっぱり簡単には落ちないらしい。