「河野副社長のことなんですが」

はあ?
今この状況で仕事の話かよ。

自分でも、眉間に皺が寄ったのが分かった。

「専務?」
呆然と見つめる俺に、彼女が首をかしげる。

「あぁ?」
思わず不機嫌な声が出てしまった。

「怒ってますか?」

「いや。それで、河野副社長がどうした?」
とりあえず話しを聞こう。

「私達秘書は普段から取締役達のスケジュールを共有しているんですが、最近河野副社長に空白の時間が多いんです」
「空白?」
「ええ。ようはプライベートってことですけれど。でも、その時間も会社のパソコンにはアクセスされていたりして、どこか変なんです」

ふーん。

確かに、仕事をしているんならスケジュールをクローズする必要はないし。
プライベートであれば、会社のシステムにアクセスする必要もない。

「怪しいと思いませんか?」
「まあ・・・そう、だな」

怪しさを感じないと言えば嘘になる。
そもそも俺は河野副社長が嫌いだし、副社長の方も俺のことが嫌いだろうとも思う。
でも、俺たちは同じ会社で働く仲間だ。
それも、会社を動かす立場にいる取締役。滅多なことで、相手を疑うことはできない。

「私、調べてみてもいいですか?」

「え?」
意外な申し出に、ポカンと口を開けたまま固まった。

「ダメですか?」
真っ直ぐに俺を見る彼女。

「何でそこまでするんだ?」

そんなことをしても何も彼女の得にはならないだろう。
そこまでこだわる理由が俺にはわからない。

「たった1ヶ月半ですけれど、鈴森商事で働いて仕事が楽しいって思えたんです。もし、この会社のためにならないことを企む人間が上層部にいるのなら許せませんし、そのことが専務の障害になるのなら私が排除します」
「排除しますって・・・」

昨夜からかわいい一面を見過ぎていて忘れそうになったが、彼女は強い人だった。
一旦こうと思ったら退かない強情さを持った氷の美女。それが青井麗子だ。