氷の美女と冷血王子

「このパンうまいね」

きっとそんなには食べられないだろうと思って食べ始めた朝食だったが、思いの外うまかった。

「このパンは近くのベーカリーで作っている天然酵母の無添加食パンです」

へー。

家では母さんがパン作りを趣味にしていたからよそのパンを食べたことがなかったし、アメリカ時代もうまいパンには出会わなかった。

「うまいよ」
「そうですか、良かった。そのトマトジュースは私が作ったんです。トマトとパインを合わせてすっきりさっぱり仕上げたので、飲みやすいと思います」

フーン。

少し甘くて、酸味もあって、パインのせいでトマトの臭みもなくて、
「とってもうまい」

「ありがとうございます」
ニコニコとうれしそうに、彼女もトーストを頬張る。

なんだかとても穏やかな時間だな。
でも、

「体、平気?」
いつも以上に明るく元気に振る舞う姿に、つい聞いてしまった。

途端に、顔を赤くしてうつむく彼女。

「無理させたよな」
本当はもっと、優しくしてあげるべきだったのかもしれない。

「やめてください。私が誘ったんです。ですから、忘れてください」
「はあ?」

忘れてくださいって・・・

「ほら、今日も仕事なんですから、食べちゃってください」
その口調はいつもの彼女。

「君は、なかったことにしたいのか?」

嘘だよな。
昨日は好きだと言ってくれたし、あんなに愛し合ったじゃないか。

「お互い子供じゃないんですから、忘れてください。ね?」

ね?って。
こいつ、本気で言っているのか?
そんなわけないよな?
だって・・・

「そう言えば、私専務にお願いがあるんですが」

え、お願い?

俺は手を止め、彼女を見た。