氷の美女と冷血王子

都会の大通り。
夜の8時はまだ宵の口で、街は人で溢れている。
こんな時間に出歩くのは久しぶりだ。

「夜は、風が冷たいですね」
さっきまで不満そうにしていた彼女が、声をかけてきた。

「ああ、そうだな」

もしかして、薄いワンピースだけの彼女は寒いのだろうか。


店を出て、ブラブラと街を歩きながら予約していたレストランに向かった。
もちろんレストランにも駐車場はあるが、車はブティックに置いてきた。
少し飲みたい気分でもあったし、酒の入った彼女を見てみたい気もある。
それに、せっかく綺麗になった彼女を連れ歩いてみたかった。

しかし、現実はそううまくばかりはいかない。

チラッ。
チラチラッ。

さっきから行き交う人が、俺たちを振り返っていく。

初めのうちは、『なぜだろう?』くらいにしか思わなかった。
『何か変かなあ』と自分を見返してもみたが、違ったらしい。
視線は俺ではなく、彼女に向いている。

こんなに人がいても、確かに彼女は目立っていた。
これだけの美人がいれば、俺だって視線くらいは送るだろう。
その気持ちもわからなくはない。
でも、実際その好奇の目にさらされる本人にしたらたまったものじゃないはずだ。


「ちょっと」
すれ違いざま、女性の声が耳に入った。

見ると、若い男女がデート中の様子。
男性の手に女性が腕を回している。
しかし、男性の目は横にいる女性ではなく俺の横を歩く彼女に向けられていた。

「ごめんごめん」
慌てて謝る彼氏。
「もうっ」
プッとふくれてみせる女性。

この一連の痴話げんかは、彼女に見とれてしまった男性が原因のようだ。
一瞬にしてその状況を理解して俺としたは、笑いたいような、優越感に浸りたいような、複雑な気分だ。