氷の美女と冷血王子

「ここは?」

無理矢理連れてこられた彼女が、ブティックの前で足を止めた。

「その服じゃどこへも行けないだろう?」

「私は帰りたいんです。どこへも行く気はありません」
はっきり言い切る声は、いつもの彼女だ。

「いいから」
「でも・・・」

「今日は俺も少し疲れたんだ。だから、付き合って欲しい」
いいだろう?と、顔を近づける。

きっと、彼女は何も言えない。
今日副社長と俺がぶつかったのは、自分のせいだと思っているんだから。

「行くぞ」
黙ってしまった彼女の腕をつかみ、俺は店の戸を開けた。



「いらっしゃいませ」
出てきた女性は、不思議そうに俺を見ている。

ここは母さん行きつけのブティック。
資産家のオーナーが半分道楽でやっているような店で、客はほとんどが常連客。
連絡さえすれば、開店時間も閉店時間もこっちの都合に合わせてくれる便利な店だ。
俺にとっては、子供の頃から何度も連れてこられたなじみの店。
さすがにここ数年はご無沙汰だったが、顔くらいは覚えてくれていたらしい。

「今日は何を?」

「あー」
チラッと彼女を見る。

「こちらのお嬢さんの、お洋服ですね」

「ええ。今から食事に行くので」
「はい」
心得ましたとばかりニッコリ笑われてしまった。

オーナーは母さんの昔からの友人。
俺だってできれば別の店にとも考えたが、女性の服はわからなくて結局ここへ来た。
きっと客商売だからペラペラ喋るような事はないだろう。

「さあ、どうぞ」
困り顔の彼女を連れて、オーナーは奧へと消えていった。