氷の美女と冷血王子

「はあー、やっぱりダメね」

いくら頑張ってもコーヒーのシミは消えない。
もちろん多少は薄くなった。
努力が全く無駄だったわけではない。
でも・・・
このまま街中を歩き、電車に乗って帰るのは勇気がいる。

せめて今が冬だったら、コートで隠せたのに。
もうすぐ7月。
どう考えても、無理。
その上夜7時でも外は明るいんだから、もー最悪。

こうなったらたまっていた雑用と、普段できない掃除と、机の整理もして外が暗くなるのを待とう。
暗くなればカバンを抱えてなんとか帰れると思うから。



午後7時半過ぎ。
窓の外はようやく薄暗くなってきた。

2時間近く掃除や片付けをしたせいで部屋の中はすっきり片づいたけれど、私は汗をかき、化粧も崩れてしまった。

フフフ。
さすがにこの顔は誰にも見せられないわね。

自虐的に笑った後、私は汚れた上着に袖を通した。

うーん、やっぱり目立つなあ。
これで電車はキツいかも。
しかたない、痛い臨時出費だけれど大通りからタクシーに乗ろう。
そうすればあまり人に会わなくてすむ。

一応財布の中身を確認し、カバンで上着のシミを隠すようにして私は部屋を出ようと歩き出した。
その時、

パタン。

予告もなく開けられたドア。

「え?」
「あっ」
声が重なった。

そこにいたのは専務。

私は固まった。

「何してるの?」
先に聞いてきたのは専務だった。

「えっと・・・それは、」
なかなかうまい言葉が出てこない。

「今日は仕事も残っていなかったし、定時で上がれるはずだっただろ?」

「ああ、ええ」
確かにそうでした。

「何してるの?」
もう一度同じことを聞かれてしまった。

なんとか良い言い訳を考えなくてはと思いながら、頭が回らない。

どうしよう、どうしよう。