氷の美女と冷血王子

「失礼します」

専務がアメリカ支社との電話会議をしている隙を縫って、私は課長の部屋にやって来た。

「ああ、座って」
デスクで書類に目を通していた課長がソファーに座るようにと勧めてくれる。

ここは社長秘書室。
広さも作りも私の使っている専務秘書室と変わりはないのに、物が出ていないせいか広く感じる。

そう言えば、この人はきれい好きの潔癖症だった。
勉強の途中で母さんが食事を出しても、『終わってからいただきます』と手を付けなかった。
後で理由を聞くと、『食べ物と勉強道具が一緒に出ているなんて考えられない』と言われ、私の方が驚いた。


「観察は終わった?」
「え?」
「随分興味深そうに眺めていたから」

「すみません」
失礼な態度をとってしまった。

「いいよ。それに、2人の時は敬語は無しだ」
「でも・・・」
「いいから」
「はい。じゃあ」

こうして見ると、徹は10年前と少しも変わっていない。
もちろん見た目は大人になったけれど、どんな時も冷静でどこかつかみ所がなくて、それでいて寂しそう。

「すまなかったな」
いきなり謝られて戸惑った。

「随分強引にここへ連れてきてしまったから」
「それは・・・」

確かに強引だったことは否定しない。
最初は腹も立った。
でも、今は

「孝太郎はわがままなところもあるし、大変だろう?」
「うーん」
どうかなあ。大変とは思わないけれど・・・

「気づいているかもしれないけれど、あいつも随分屈折しているから」
「そうね」
思わず頷いてから、しまったと口を閉ざした。

上司である専務のことを悪く言うなんて、秘書としては失格だわ。

「気にしなくていい、ここはオフレコだ」
「うん」

仕事中は厳しい顔を崩すことのない徹だけれど、今は穏やかな表情。
これが私の知っている徹。