氷の美女と冷血王子

一旦携帯をしまった俺は執務室に戻り、応接セットに彼女と向かい合って座った。

「いつもあんな感じなの?」
「あんなって?」

今さら何を言っているのって顔をしているけれど、

「あれはセクハラだろ」
「違いますよ」

「セクハラじゃなくて何なんだよ」
つい声が大きくなった。

あんなことを許すから、いつまで経ってもハラスメントはなくならないんだ。

「いいじゃないですか、あれくらい」

はああ?

「お前、バカなの?」
思わず地が出てしまって、
「専務」
ギロッと睨まれた。

「だって、そうだろう」
ここは夜の店とは違うんだ。

「ちょっと距離が近かっただけじゃないですか」

「椅子も引けないくらいに近寄られて?」

「そりゃあいい気分ではありませんけれど、よくあることですし」

「よくあるって・・・」

彼女が許しても俺は許せない。
ここで泣き寝入りなんて絶対におかしい。

「お願いですから騒がないでください。これ以上仕事がやりにくくなると困るんです」

「君はそれでいいのか?」
「ええ。私は無事に勤務を終えたいんです。だから、何も言わないでください」
その言い方から、必死さが伝わってきた。

彼女は今まで、色々な理不尽と戦ってきたんだなと改めて実感した。
ここで騒げば、きっと彼女が辛い思いをするだけだ。

「わかった」
そこまで言うなら、黙っておこう。
彼女の仕事がやりにくくなるのは本意ではない。

「その代わり、これからは外回りも含めて俺の外出にはすべて同行してもらう」
「いや、それは・・・」
「それがイヤなら、さっきのことをコンプライアンス室に申し出るが」
「・・・」

「いいね」

「はい」
彼女がガックリと肩を落としたように見えた。