「大体さあ、何であんなに至近距離に座らないといけないんだ?」

重役フロアの会議室は広さもあるし、机だって大きい。
いつもはもっと間隔を開けて広く使っているはずだろう。

「知りませんよ、向こうが寄ってきたんですから」
「寄ってこられてイヤなら、自分から離れろよ」
「そんな無茶な・・・.」
呆れたように口を開けられた。

確かに、新人臨時秘書の立場なら、文句なんて言えないかもしれない。
でも、逃げることくらいはできるだろう。

「出席者のほとんどはおじさん達ですからね、若い女性が珍しいんですよ」
「はあ?」
ボソリと呟かれた言葉に、俺が反応してしまった。

「何、あれは打ち合わせしたいことがあるから距離を詰めていた訳じゃないのか?」
「いいえ」
はっきりとした声。

じゃあ何か、あいつらは用もないのに必要以上に接近していたってことか?

「それって、セクハラだろう」
「そうですかね」

そうですかねって、そうとしか思えないじゃないか。

俺はすぐに携帯を手にした。

「何をする気ですか?」
心配そうな彼女。

「徹を呼んで事実関係を確認する」

あの場には徹もいたんだから。

「やめてください」
彼女が携帯を持つ俺の手を押さえていた。