氷の美女と冷血王子

仕事には来てくれるようになったが、彼女はまだ心を開いてくれているわけではない。
その証拠に、何度誘っても会社の外へは同行してくれない。
仕事での外出も
「私のような素人ではなく、仕事のわかる方をお連れください」
と断られる。
無理を言って来てもらっている以上、俺としてもあまり強引な手にはでられない。

でも、さすがに飯くらいは、
「何でも好きなものをおごるから、行こうよ」
珍しく下手に出てしまった。
しかし、
「申し訳ありません」
やっぱり返事は同じ。

「なあ、そんなに俺のことが嫌いなの?」

自分でも、愛想がいいとも一緒にいて楽しい人間だとも思ってはいない。
しかし、ここまで避けられればさすがに傷つく。

「お気を悪くさせたのなら申し訳ありません。ですが、私は人混みが苦手なんです。決して専務と一緒だからと言うわけではありません」
キッパリはっきりと言った。

人混みが苦手って言うが、今までだって花屋の配達でうちの会社を出入りしていたわけだし、夜はママの店で接客業をしていた。
今さら人混みが苦手だなんて言われて納得できるはずもない。

なんだか気分が悪い。

「もういい。君が俺と食事をしたくないんだってことはよくわかった」
プイッと顔を背け、俺はデスクに戻り書類を広げた。

「専務、お昼はどうなさるんですかっ」

完全に仕事モードに入ってしまった俺に、呆れたような彼女の声が飛んだ。