「コーヒーでも入れようか?」

今まではわざわざ人を呼ぶのも面倒くさくて、自分で飲むコーヒーくらいは入れていた。
ついその感覚で立ち上がったとき、

「コーヒーでしたら私が」
彼女が先に動いた。

「ああ、ありがとう」

そうか、これからは自分でする必要はないのか。

「お砂糖とミルクは?」
「いや、ブラックでいい。それと、君のも入れてね」
「いえ、私は」
遠慮している。

「いいから」
「でも・・・」
「ちょっと話もしたいから、2人分のコーヒーを入れたらそこに座って」
「はい」

納得したように、コーヒーを両手に持ちソファーに腰を下ろした。

「ありがとう。君もブラック?」
「はい」
まだ緊張の消えない彼女が、少し下を向く。

「緊張しているよね?」
「ええ」
「でも、このフロアには週1で来ていたんでしょ?」
「それはそうですけれど、」

それとこれとでは話が違うと言いたそうだ。

「肝が据わっていて緊張するタイプには見えないけれどね」
「別に緊張しているわけでは・・・」

「じゃあ、何?」

この半月、徹から『なかなか良い返事がもらえない』と聞かされていた。
乗り気でないのも分かっている。
最後には『多少強引な手を使っても良いから、とにかく連れてきてくれ』と言ってしまった。
だから、彼女だってこんな展開になってしまったことについて言いたいことはたくさんあるはずだ。