氷の美女と冷血王子

カランカラン。
狭い路地を進んだ先の小さなドアを開け、俺たちは店の中へと入った。

「いらっしゃいませ」
出迎えてくれたのは50代くらいに見えるママ。

「どうぞ」
勧められて座ったカウンター席も決して広くはない。

「えっと、俺はビール」
「俺も」

二人して飲み物を注文し、グルッと店の中を見回す。

あ、いた。

店の奥の方に1人、若い女性。とは言っても、席から見えるのは後ろ姿だけ。
身長は165センチくらいだろうか、すらっと細身で、引き締まった足首。
だからと言ってただ細いわけではなく、ほどよく筋肉のついたいい体をしている。
この薄暗い店内でもわかるくらいに色白で、緩やかにウエーブの入ったライトブラウンの長い髪が時々揺れている。
確かに、徹が「一見の価値がある」と言うのがよくわかる。
後ろ姿だけでこんなに目を引くなんて。こうなったら顔を見てみたい。
素直に、そう思った。

俺だって、今までには何人かの女性と付き合ってきた。
本気で好きになったこともあるし、手放したくないと思った女性だっていた。
しかし、自分から好きになったことはなかったように思う。
好きになられて、告白されて、交際がスタートする。それがパターンだった。
自慢するわけではないが、俺はそこそこモテる。
無愛想で、取っつきにくいと言われることはあるが、目鼻立ちははっきりしているし、身長だって185センチ越で、スポーツも音楽も何でもそつなくこなし、仕事だって総合商社の御曹司で専務取締役。
飲み会に行けば女性に囲まれることだって珍しくない。
その俺が、第一印象でこれだけ興味をもった女性は初めてだ。

「麗子」
ママが声をかけ、
「はーい」
女性が振り返った。

その瞬間、
ハッ。
俺は息をするのを忘れた。

カウンターに近づいた彼女が料理を受け取り、テーブルに運んでいくのを俺はただジーッと見ていた。
瞬きさえしていなかったと思う。

うーん、確かに綺麗だ。
目はクッキリとした二重。スーッと通った鼻筋、存在感のある唇は日本人離れしてセクシーに見えるのに、額と頬のラインはいかにも日本人らしく涼やか。
きっと化粧もそんなにはしていないんだろう。リップさえ付けていないように見える。
しかし、10メートル先からでも目を引く美しさがそこにはあった。