氷の美女と冷血王子

「専務。もういいですから、帰って下さい。私は大丈夫です。母に付き添ってもらいますから」

点滴を打たれおでこに冷却シートを付けたまま、体中傷だらけの麗子が、真っ直ぐに孝太郎を見る。

「俺もつきそうよ」
いくら孝太郎が言っても、
「ダメです。帰って下さい」
麗子は引かなかった。

「心配なんだ。側で見ていないと、心配でたまらない」
必死で訴えるが、
「お願いですから帰って下さい。専務の側にいると・・・私が辛いんです」

「麗子?」

「思い出して苦しくなるんです。もう忘れたいんです。だから、帰って下さい」
最後は孝太郎に背を向け、布団に潜ってしまった。

ここのところ、『孝太郎』と名前で呼ぶようになっていた麗子の呼び方が、『専務』に戻っていた。
意識してなのか無意識なのかはわからないが、この呼び方1つで2人の間に距離があることを感じさせた。


この日から、麗子は孝太郎のことを拒絶するようになった。
毎日のように訪れる孝太郎に会おうともせず、面会も拒み続けた。

しばらくして、孝太郎の方も麗子に近づかなくなった。

とは言え、孝太郎の気持ちが麗子から離れていったわけではないと思う。
孝太郎からすれば、自分が側に行けば麗子は事件を思い出すし、自分が近くにいる限り麗子を苦しめることになる。
もう2度と麗子を傷つけたくはない。それが孝太郎の本心のはずだ。