「青井さん、青井さん」
耳元で私を呼ぶ声がした。

「ん、んんーん」
口を塞がれた私は、声を出すことができない。

「目と口を取りますから、静かにしてくださいね」

ここで反抗してもどうにもならないのは分かっているから、私はコクンと頷いた。

ペリッ。

「ウゥッ」
粘着テープの剥がれる痛みに、思わず声が出た。

「良いですか、もう騒いだり暴れたりしないでください」
私の頬に手を当てながら言うのは三島さん。

そうか、気がついたのはこれが2度目。

ホテルで気を失った私は薄汚い廃工場のような場所に連れてこられた。
そして、1度意識を取り戻し暴れて抵抗した。
これでも子供の頃に空手を習っていたし、運動神経だって悪くはない。
本気になればなんとかなると思っていた。
実際、何人かに蹴りを入れ初めのうちはいい戦いをしていた。でも、そこは男と女の体格の差と、1対3の人数的な不利もあり、すぐに押さえ込まれた。
それからは酷かった。
蹴られ、殴られ、冷たい水を全身に浴びせられた。
『このままじゃあ、死ぬ』生まれて初めて命の危機を感じた。
そして、私はまた気を失ったんだ。

「かわいそうだけれど、足と手の拘束はこのままです」
この場には不釣り合いなくらい優しい顔で私を見る三島さん。

びしょ濡れの全身からくる寒さよりも、この状況で見せる三島さんの穏やかな表情が怖い。

私はコンクリート張りの床に転がりながら、ただブルブルと震えた。