氷の美女と冷血王子

「旨いな、このキュウリ」
「そお?良かった」
うれしそうにキュウリに箸を延ばす麗子。

こうして見ると、美人で料理上手で頭も良くて完璧な女性なんだがなぁ。

その時、チラッと目に入った書類の山。
きっと、河野副社長についてのものだと思う。
麗子は相当恨んでいるようだし、1日かけて調べていたんだろう。
昨日見たときよりも、随分と書類の山が高くなっている。

「ずっと調べていたのか?」

甘辛く味付けされた絶品のぶりを頬張りながら、さりげなく振ってみた。

「他にすることもなかったしね」

「暇なら秘書に戻ってくれ」

それでなくても、俺は1人でてんてこ舞いなんだ。
麗子がいないと仕事がはかどらない。

「孝太郎、しつこい」
ギロッと睨まれた。

フン。
どんなに断られたって、俺は諦めない。
こう見えて執念深いんだ。

「そう言えばね、河野副社長がここ数年で契約した新規の取引先が気になるのよ」

「え?」
いきなり仕事の話になって、俺の箸が止った。

「どこも大手ではなくて中堅企業で、もちろん経営は安定しているんだけれど・・・」
麗子が言いよどんだ。

「何だよ」

「うん。河野副社長の関係者がやたらと多いの」

「関係者?」

「うん。甥とか、姪とか、友人とか、友人の子とか。中には奥さんの実家が経営している会社まであるの」

「それは・・・」
確かに胡散臭いな。

でも、それなら契約の時点で俺の耳に入ってきそうなものだが。
そんな話は全く聞いていない。

「私もね、随分調べてやっと分かったの。でも、そこまで隠しているって事が余計に怪しいと思わない?」

「そう、だな」

怪しさ満載だ。でも、危なさも感じる。

「見ていなさい。今度こそきっちり証拠を見つけて、河野副社長の化けの皮をはぎ取ってやるわ」

持っていたグラスをトンと置いて、ギュッと握り拳を作った麗子。

「オイ、危ないまねするんじゃないぞ」
「大丈夫よ」
ニコッ。

嘘だ。お前のその笑顔が一番怪しい。

「何かあったらまず俺に言うんだぞ」
「はい」

「絶対だからな」
「もう、分かってるって」

この時の俺は、麗子の行動力を甘く見ていた。
無鉄砲で猪突猛進な氷の美女が、おとなしくしているはずなんてなかった。