氷の美女と冷血王子

夕方、元から出勤予定でなかった俺は、早めの時間に会社を出た。

いつもなら家の車に乗って帰るところを、会社に置いていた自分の車を運転して帰る。

さっきから、帰宅時間を確認する母さんからのメールが鳴り止まないが、今は無視だ。

さあ、麗子の家に帰ろう。
夕食が楽しみだな。



「ただいま」
「お帰りなさい」

ゆったりとしたワンピースにエプロン姿の麗子が、玄関まで出てきた。

うぅーん。
どんな物を着てもかわいいのは、美人の特権だと思う。

「お腹すいた」

自分の動揺を誤魔化すように、キッチンを覗き込む。

「今日はブリの照り焼きと肉じゃがと、きゅうりの梅肉和えよ」
「へー、旨そう」

昨日まで海外だったから、和食が嬉しい。

「昨日居酒屋で食べたきゅうりが美味しくて、挑戦したの」
「ふーん」

昨日、居酒屋に行ったんだ。
俺は必死に連絡をしていたのに。

「どうかした?」

俺の顔色が変わったのが、分かったらしい。

「居酒屋、誰と行ったんだよ」
「それは・・・」
麗子の困った顔。

「言えないのか?」

ジリッジリッと近づくと、後退りした麗子が背中を壁にぶつけて止まった。

「誰といたんだ?」

低く冷たい声で追い詰める今の俺は、麗子にどう写っているのだろう。
きっと、嫉妬深くて、ちっぽけな男に見えている事だろうな。

「もう、営業の高田くんと、鈴木さんと一緒だったのよ」
「え?」
予想外の返事に、ポカンと口が開いた。

「何で?」

高田とも一華とも、取り立てて親しいわけではないはずだが・・・

「たまたま街で出会って、誘われたの」
「ふーん」

納得したわけではないが、まあいい。
これ以上言って薮蛇になっても困る。

「とにかく飯にしよう。お腹すいた」