1人で考えていてもどうしようもないと、俺は麗子を探しに出ることにした。

まずは麗子のマンションに行って、それから店にも行ってみよう。
ママに聞けば行き先くらいは知っているかもしれないし。

「ああ、その前に」

車のキーを持って部屋を出ようとしたところで、飛行機の中から頭痛が続いていたことを思い出した。
まあ、原因は寝不足と仕事の疲れで、時々忘れるくらいだからたいしたことはないんだが、運転する前に薬だけ飲んでおこう。
俺は常備している鎮痛剤を手に給湯室へ向かった。


「ねえ聞いた?あの人、専務から河野副社長に乗り換える気だったみたいよ」

あと数歩で給湯室というところまできたとき、中から女性の声が聞こえてきた。
以前から秘書達がここで井戸端会議をしているのは知っていたが、どうやら鉢合わせしてしまったらしい。
「困ったな、どこかで水を買おうかな」と、方向転換をしようとしたとき、

「うちに入り込むために課長に取り入って、専務を落とせないと分かったら副社長に乗り換えようなんて、性悪もいいところよね。怖いわー」
「そうよね、ちょっと美人だからって何でもできると思ったら大間違いなのよ」
「結局首になったんでしょ、いい気味よ」

どうやら、中にいるのは3人。皆秘書課の人間なんだろう。
そして、話題は麗子のことらしい。
それにしても酷い言いようだ。
こういうのを誹謗中傷って言うんだろうな。
女って怖い生き物だ。
あいつはいつもこんな事を言われていたんだな。

今まで、『なぜ麗子は周囲の人に対する警戒心が強いんだろう』と思っていた。
でも、腑に落ちた。
目立ちすぎる容姿故にいわれのない中傷を受け続けていれば、警戒心だって強くなるはずだ。
きっと、何度となく傷ついてきたんだ。
こんな事なら、もっと優しくしてやるんだった。

会いたいな、麗子に。
でも、麗子を傷つけ苦しめている原因は俺。
会いたくないと思われているんなら、俺は黙って身を引くべきなのか?

そっと給湯室から離れ、駐車場へ向かう。
まずは、麗子を探してみよう。
今はそれしかない。