久しぶりに落ち込んだ。
自分の浅はかな行動と、我慢できなかった性格を呪った。

家に帰りベットに入ってもなかなか寝付けず、結局朝を向かえた。
しかし、あと2日は帰ってこない専務の留守を守るためには仕事を休むわけにいかないし、家にいて悶々とするくらいならといつも通り出社した。

トントン。

ん?
誰だろう?

専務もいない日に、来客の予定はなかったはず。

「はい」
ノックされたドアを開ける。

そこにいたのは、昨日の昼に会った専務のお母様だった。



「昨日は突然ごめんなさいね」
「いえ、私こそ申し訳ありませんでした」

コーヒーはいいから座ってくれと言われ、私は向かい合って腰を下ろした。

「あなたって、有名人なのね」
「え?」
意味がわからず問い返す。

「随分な経歴をお持ちのようね」

パサッと、放られた書類がテーブルに落ちた。
それは私に関する調査書。

「学生時代から派手に遊んでいたようだし、勤めた会社も3ヶ月で解雇。不倫と情報漏洩が原因ですって?それに、うちに来る前は水商売をしていたらしいじゃない。綺麗な顔をして素行が悪すぎるわ」

「それは・・・」

全部嘘ですと言えば信じてもらえるだろうか?
きっとダメだろうな。
奥様は私のことを完全に嫌っているんだから。

「あと1ヶ月足らずで辞める契約らしいけれど、できればすぐにでも辞めてちょうだい。あなたがこの会社にいると思うだけで気分が悪いわ」

こんな時泣けるようなかわいい性格なら良かったと思うけれど、私は違う。
ただ無表情に奥様を見返していた。

「孝太郎のことを思うなら、黙ってここから消えてちょうだい」

「・・・」
何も言えなかった。

私はきっと、ここにいたらいけない人間。
いくら専務のことが好きでも、私がいることで誰かが傷つくのを見たくはない。

迷いはなかった。
これが一番専務のためと思えた。

私の恋なんてそんなものよと心の中で呟きながら、会社を辞め専務の下から消える決心をした。