氷の美女と冷血王子

「ッたく、うざいなあいつ」
え?
廊下に出た途端態度の変わった徹に目を丸くした。

「お前」
「ああ、社長が呼んでるなんて嘘だよ。うざかったから連れ出してやった」
感謝しろとでも言いたそうに、笑ってみせる徹。

すごいな。

俺が3年アメリカに行っている間も、徹はずっと父さんの秘書をしていた。
今では、経験も社内での信用も俺の比ではない。


「それで、大丈夫なのか?」
きっと今朝のトラブルのことを言っているんだろ。
「ああ、なんとかする」
なんとかしないわけにはいかない。

「担当、一華ちゃんなんだろ?」
「ああ」
それも心配の一つだ。

周囲には秘密にしているが、鈴木一華は俺の妹だ。
社長の1人娘として大切に育てられたはずなのに、なぜか『ちゃんと働きたいから、就職する』なんて言い出して父さんを困らせたあげく、勝手にうちの会社を受けて最終面接にまでこぎ着けていた。
もちろん、最終面接まで行って俺や父さんに隠すことなんてできなくて、怒った父さんが不採用にしようとしたとき、『それならよその会社に行く。それでもダメなら、アルバイトでもしながら1人で暮らす』と家を飛び出した。
本当に我が妹ながら直情型で困ってしまう。
最終的に、父さんが折れた。どこでどんな暮らしをされるかわからないよりは、手元に置いておきたいと思ったんだろう。