氷の美女と冷血王子

「ここ、とっても美味しいんです」
ニコニコと笑いながら高そうな和食店へ入っていく山田さん。

「え、ここ?」

OLのランチにはあまりにも高級そうで、足が止った。

「大丈夫ですから。さあ行きましょう」
「え、ええ」

山田さんに腕を引かれ、私も店に入った。


通されたのは奥まったところにある和室。
着物を着た仲居さんに案内され、板張りの廊下を歩きながら何かおかしいと私も感じ始めた。

「失礼します」
音もなく引き戸を開けた山田さんは、ぺこりと頭を下げてから部屋へと入って行く。

私もそれに続いた。


部屋に入り、私は固まった。
その衝撃は強すぎて、立派なお部屋も、豪華すぎるランチも目に入らない。

「突然で申し訳ない。驚かせてしまったかな?」

人の良さそうな穏やかな声。
本性を知っている私でさえ騙されそうになる優しい笑顔。
こういう人が、本当の悪魔だと思う。

「青井さん、ごめんなさいね」
小さな声で、山田さんが謝った。


私と山田さんが通された部屋には、すでに2人の先客がいた。

1人は河野副社長。
できることなら顔を見たくない相手。

もう1人は、50代に見える女性。
少しグレーがかった髪を綺麗にセットし、色白の肌にナチュラルメイク。
服も落ち着いていて上品。
いかにもいいところの奥様って感じの人。

誰だろう?
少なくとも会社では会ったことがない。

河野副社長の奥さん?
イヤ違う、写真で見た奥さんは別人。
それじゃあ・・・

「そんな所に立ってないでお座りなさい」
注意するように口を開いた女性。

「はい」
反射的に山田さんが動いた。

私は一瞬立ち止まったけれど、このままでいるのも大人げないと席に着くことにした。