氷の美女と冷血王子

その日の夕方、私は定時をすぎても会社に残っていた。

・・・6時。

・・・7時。

普段できない細々した雑務をこなしながら、専務を待った。

どんなに遅くなっても、専務は1度会社に戻るはず。
明日からの出張の準備もまだのはずだし、夕方にはアメリカ支社からのメールも来ると言っていた。
気の毒なくらい仕事は山積みだから。

・・・8時。

専務は夕食を食べたかなあ。
副社長も一緒だから、きっとどこかで食べているわよね。
もしかして、今日は戻らないかも。
そんなことを考え始めたとき、

バタッ。
専務室のドアが開いた。

「あれ?」

いるとは思っていなかった私がいたことで、驚いた顔をした専務。

「お疲れ様です」
「ああ」

いつもはきちんとまとめられた髪が少しだけ乱れて、疲労感をにじませる表情。
オーバーワークで疲れ切っているのは一目瞭然。

「大丈夫ですか?」
答えのわかっている質問をしてしまった。

「大丈夫だ」

穏やかな声で答えた専務は、私の元に歩み寄る。
そして、

ギューッと、私を抱きしめた。

「せ、専務」
本当なら大声で叫びたいのに、声が出ない。

就業時間外とは言え職場で抱き合うなんて考えられないのに、突き放すことができない。
私はただ、その場に立ち尽くした。

「悪い。文句なら後でいくらでも聞くから、少しだけこうしていてくれ」
背中に手を回し、私の肩の顔に埋めた専務の体が少しだけ揺れている。

私も専務の体に手を回し、そっと抱きしめた。