氷の美女と冷血王子

「君は社内システムへの上級アクセス権を持っているよね?」
「はい」

先日専務に許可してもらった。

「これは、君のアクセス記録だ。専務秘書としての業務からはかなり逸脱した部分があるようだけれど」
どういう事なんだと、徹が聞いている。

「それは・・・」

どう説明したところで、言い訳にしかならないだろう。
私が河野副社長の動向を探る為に、不要なアクセスをしたのは事実なんだから。

「これは越権行為だね?」
「そうかもしれません」

ここに乗っているのは私が見た記録のほんの一部。
それも、当たり障りのない内容ばかり。
と言うことは、私が何をしたのか河野副社長側はすでに知っている。
その上で、こんな物を出してきたんだ。

「君の処分については、専務と相談させてもらいます」
「はい」
何を言われても反論はできない。


フウー。
徹が大きく息をついた。

「上司としての顔はここまでだ」

「え?」

「ったく、危ないまねしやがって」
さっきまでの冷めた顔から一転、徹は不機嫌そうに眉間にシワを寄せた。
その迫力に、
「・・・ごめんなさい」
私は思わず謝ってしまった。

「お前のことだから、これだけじゃないんだろ?」
うっ、
「それは・・・」

「孝太郎は知っているのか?」
「・・・うん」

「はあぁー」
ガックリと肩を落とす徹。

「今回の件、河野副社長を追い込むチャンスだったんだ。証拠だってそろっていたのに、最後の最後になって孝太郎が『これ以上追求するのはやめた』なんて言うから、おかしいと思ったんだよ」

ええええ。
「それって、私のせいで?」

「それはわからないが、河野副社長ならお前のことを持ち出して脅すくらいのことはするだろうな」

「そんな」
これじゃあ、私は専務の足を引っ張っただけじゃない。

それからしばらく、徹はブツブツと文句を言っていたけれど、私の耳には入ってこなかった。